研究課題/領域番号 |
15K18681
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 紅 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定拠点助教 (70401213)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HDL / ABCA1 / ABCタンパク質 / 1分子イメージング / コレステロール / ダイマー |
研究実績の概要 |
ABCA1は善玉コレステロールとして知られるHDL産生に必須の膜タンパク質である。体内のコレステロール恒常性維持に重要な働きを担うにもかかわらず、ABCA1がどのようにして細胞内の過剰コレステロールを細胞外のapoA-Iへと受け渡してHDLを産生するのか、その機構には不明な点が多い。本研究代表者らは、HDL産生においてABCA1がダイマーを形成することを見出しているが、ダイマー化のメカニズム、生理的重要性は不明である。本研究においては、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いた1分子イメージングによって、細胞膜上のABCA1や脂質の挙動を観察し、HDL産生におけるABCA1ダイマー化機構を解明することを目的として解析を行っている。 研究初年度にあたる平成27年度には、以下の成果が得られた。まず、ABCA1のC末端領域に存在するロイシンジッパー様モチーフの3つのロイシンをアラニンに置換した変異体ABCA1-3LAを作製したところ、HDL産生能を保持するにも関わらずダイマー化しにくいという結果が得られた。また、ABCA1発現によって培地中に産生されるHDLを回収し、HDL粒子の大きさを蛍光検出ゲルろ過クロマトグラフィー(FSEC)によって分離解析したところ、野生型ABCA1が大小2種類のHDL粒子を産生するのに対し、ABCA1-3LA変異体は主に小さなHDLを産生することを見出した。また、大小各サイズのHDLのピーク部分を分取して電子顕微鏡により観察した。 ABCA1のダイマー化はC末端ロイシンジッパー様モチーフだけでは説明できないため、今後は細胞外領域などに注目し、ABCA1ダイマー化機構をさらに詳しく明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ABCA1のダイマー化機構および生理的重要性についてはまったく不明であったが、研究初年度には、これらに関する重要な知見が得られた。まず、ABCA1のC末端領域に存在するロイシンジッパー様モチーフがダイマー化に一部関与することを明らかにした。ダイマー化しにくいABCA1-3LA変異体タンパク質分子の細胞膜上での拡散係数は、ダイマーを形成して静止する野生型ABCA1より大きくなった。また、野生型ABCA1が大小二種類のHDL粒子を産生するのに対し、ダイマー化しにくい変異体では大きなHDL粒子の産生能が低下し、主に小さなHDL粒子を産生することを見出した。大小二種類のHDL粒子をゲルろ過クロマトグラフィーによって分取して電子顕微鏡観察したところ、それぞれ直径約14 nmと10 nmのディスク状の構造であることが分かった。 以上、ABCA1のダイマー化には、C末端領域に存在するロイシンジッパー様モチーフが一部関与する可能性、ABCA1のダイマー化は、大きなHDL粒子を産生するために重要であるという生理的重要性を示唆する結果を得たことから、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年度目においては、ABCA1の細胞外領域がダイマー化に関与する可能性を検討するため、ABCA1の細胞外領域を他のABCタンパク質と入れ替えた各種変異体を作製し、ダイマー化の検討、HDL再生能、産生するHDLの大きさの評価を行う。また、ABCA1の細胞外領域にコレステロールが蓄積する可能性を検討し、これがダイマー化に関与するかどうかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の実験計画と多少の変更が生じ、購入する試薬が減ったため。また、当初予定していた海外の学会への参加を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、使用試薬の増加が予想され、物品費に使用する計画である。また、学会への参加が増えるため、旅費にも使用する予定である。
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