研究課題
緑藻クラミドモナスのC/Nバランス応答制御因子であるタンパク質リン酸化酵素TAR1のリン酸化標的となるタンパク質を探索するため、大腸菌で発現させたTAR1タンパク質を用いて、クラミドモナス野生型細胞より抽出し脱リン酸化処理した全タンパク質に対してin vitroリン酸化反応を行った。これをリン酸化プロテオミクス解析に供することで、TAR1によってリン酸化されたペプチドを計785個同定した。さらに、TAR1によるin vivoでのリン酸化制御を受ける基質タンパク質を絞り込むため、tar1-1変異体と野生型細胞を窒素欠乏下で培養した細胞から経時的にタンパク質を抽出し、野生型では窒素欠乏に応答してリン酸化が亢進するが、tar1-1変異体では亢進しないリン酸化ペプチドを200個見出した。そのようなペプチドの中から、in vitroでもin vivoでも共通してTAR1制御下にあるリン酸化ペプチドを選抜した。これらのペプチドの中にTAR1の直接のリン酸化標的が含まれる可能性が高い。候補ペプチドには窒素欠乏応答性の転写因子やタンパク質リン酸化酵素、タンパク質脱リン酸化酵素等の修飾酵素、タンパク質分解に関わるユビキチン-プロテアソーム分解系の因子などtar1-1変異体の表現型と関連が推定されるタンパク質のペプチドが含まれていた。既に各標的候補をコードする遺伝子の挿入変異体をクラミドモナス株配布機関より取り寄せているので、今後これらの変異体の解析から、TAR1がタンパク質リン酸化を介して制御するC/Nストレス応答機構の詳細な分子機構を明らかにする。リン酸化プロテオーム解析については既に論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の達成目標として、1.リン酸化プロテオーム解析によるTAR1のリン酸化標的タンパク質の候補を取得、2.それらの候補タンパク質について挿入変異体の解析からTAR1との機能の関連性を明らかにし、TAR1の下流で機能する因子を同定、3.TAR1のシロイヌナズナオーソログであるAtYAK1の変異体の機能解析により、植物の多細胞化や陸上化といった進化の過程でTAR1の機能がどのように変遷し、また保存されているかを解明する、という3つの大目標を設定した。このうち、1についてはリン酸化プロテオーム解析の実施により標的タンパク質を取得することができた。また2についても候補遺伝子のクラミドモナス挿入変異体を取得することが出来、次年度にそれらの解析を行う見通しが付いている。さらに3についてはシロイヌナズナ変異体の解析からクラミドモナスTAR1のオーソログであるAtYAK1がTAR1と同様に、C/Nストレスに応答して炭素(糖)代謝の制御機構において機能することを示唆する結果を得た。これはTAR1の機能が進化的に保存されていることを示唆している。このように当初研究計画が順調に推移し、次年度の研究計画にスムースに移行している。
TAR1のリン酸化標的候補タンパク質の機能を明らかにするために、それらをコードする遺伝子の挿入変異体の表現型を調べ、tar1-1変異体の表現型と比較検証する。現在、リン酸化プロテオームによりTAR1特異的なリン酸化制御を受けることが見出され、かつC/Nバランス応答との関連が示唆される9遺伝子の変異体を取得している。これらの変異体に対し、TAR1によるリン酸化部位と想定されるアミノ酸残基を置換した変異型タンパク質を発現させることで、TAR1が触媒すると考えられるリン酸化が変異体表現型に及ぼす影響を検証する。これらの解析によって、TAR1がタンパク質リン酸化を介して制御するC/Nストレス応答機構の詳細な分子機構を明らかにする。シロイヌナズナのTAR1オーソログAtYAK1の機能解析については、T-DNA挿入変異体を機能相補株と共にC/Nストレス下で生育させ、糖以外の炭素代謝に異常がみられるかを調べる。さらに既知のC/Nストレス応答性の遺伝子発現に異常が見られるかを定量的RT-PCRを行って検証する。
物品費としてクラミドモナス変異体ライブラリの作成に関する費用を見込んでいたが、米国カーネギー研究所Jonikas研究室の成果でクラミドモナス変異体ライブラリがクラミドモナス株配布機関に供託され(https://www.chlamylibrary.org)、当年度から利用できるようになったため、独自に変異体ライブラリを作成する必要が無くなった。そのため次年度使用額が生じた。
次年度使用額については翌年度分として請求した助成金と合わせて、クラミドモナス株配布機関より取得した変異体の解析に必要な物品費および投稿中の論文の掲載費に充当する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Plant Physiology
巻: 168 ページ: 752-764
10.1104/pp.15.00319
http://www.molecule.lif.kyoto-u.ac.jp/index.html