研究課題/領域番号 |
15K18685
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 龍一郎 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (70632397)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 酵素学 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリア Cyanothece sp. ATCC 51142 株は、3種類の枝作り酵素(BE)遺伝子(BE1、BE2、BE3)を有している。これら3種類のBEの特性解析および結晶化実験を行い、リガンドフリーのBE1の結晶構造を1.85オングストローム分解能で決定した。これまでに大腸菌、Mycobacterium tuberculosis、イネ、ヒト由来BEの結晶構造が報告されているが、糖鎖が活性中心(触媒クレフト)に結合した状態の構造は報告されていなかった。最近になって、大腸菌、イネ、ヒト由来BEの酵素表面に糖鎖が結合した状態の結晶構造が報告され、BEには表面糖鎖結合部位が存在することが明らかとなった。しかしながら、いずれの表面糖鎖結合部位も触媒クレフトから離れた位置に見出されている。 そこで、BE1の結晶に糖鎖をソーキングした状態での結晶構造解析を試みた。その結果、触媒クレフトに糖鎖が結合した状態の結晶構造を高分解能で決定し、触媒クレフトを形成するアミノ酸残基を明らかにすることができた。触媒クレフト付近のアミノ酸残基の変異体解析から、BE1が転移する分岐鎖長の制御に関わるアミノ酸残基を見出した。さらに、7カ所の表面糖鎖結合部位の存在を明らかにした。これら7カ所のうち3カ所は、新規の表面糖鎖結合部位である。表面糖鎖結合部位を形成するアミノ酸残基に変異を導入した変異体の解析から、7カ所全ての表面糖鎖結合部位はBE1の活性に関与することが明らかとなった。 触媒クレフトと表面糖鎖結合部位の位置、および結合した糖鎖の向きから、BE1に結合する供与体基質および受容体基質の結合様式を予想し、反応機構モデルを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
枝作り酵素(BE)は、αグルカン(グリコーゲン、澱粉)の分岐鎖形成を担う鍵酵素である。BEの活性中心(触媒クレフト)は未解明であり、研究の余地が残されている。本研究ではシアノバクテリア Cyanothece sp. ATCC 51142 株由来BE1に着目し、触媒クレフトに糖鎖が結合した状態での結晶構造解析を目的として研究を行った。その結果、触媒クレフトならびに7カ所の表面糖鎖結合部位を見出した。触媒クレフトおよび表面糖鎖結合部位を形成しているアミノ酸残基に変異を導入した変異体の解析から、これらアミノ酸残基が糖鎖と相互作用している証拠を得た。これら実験的根拠に基づき、より信頼性の高いBE1の作用機序モデルを提案できた。 BE1の特性解析および結晶構造解析の成果の一部は、Acta Crystallographica section F 誌に発表した。また、BE1の触媒クレフトに糖鎖が結合した状態で決定した結晶構造の成果は、学術誌に発表する予定である。以上のことから、順調に成果が得られていると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
より正確なBE1の作用機序を提案するために、以下の研究を推進する。 BE1が転移する分岐鎖の長さの制御に関わると考えられるアミノ酸を同定することを目的として、BE1の触媒クレフト周辺に位置するアミノ酸残基への変異導入ならびに変異体解析を行う。現在考えている供与体基質および受容体基質の結合様式を検証するため、触媒ドメインの表面糖鎖結合部位と触媒クレフトとの間に位置しているアミノ酸残基の変異体解析を行う。 シアノバクテリア Cyanothece sp. ATCC 51142 株は、3種類のBE遺伝子(BE1、BE2、BE3)を有しているが、BE3のアミノ酸配列と酵素特性はBE1およびBE2とは著しく異なることを見出している。特性の異なるBE間においても、作用機序は同一であるか検証する必要がある。そこで、BE3の構造機能相関の解明を目的として、結晶構造解析を試みる。
|