研究課題/領域番号 |
15K18686
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
戸田 佳織 (安田佳織) 富山県立大学, 工学部, 研究員 (70707231)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ビタミンD水酸化体 / P450 / 骨粗鬆症治療薬 |
研究実績の概要 |
ビタミンD水酸化体は、すでに医薬品となっている天然の活性型ビタミンD3(1α,25-ジヒドロキシビタミンD3)やその誘導体を含め、骨粗鬆症やがん等の予防・治療が期待される有用な化合物である。しかしながら、化学合成が困難なことから高価な化合物となっており、安価な製造法が求められている。活性型ビタミンD3については、近年バイオコンバージョン法による安価な生産が実用化されたが、他のビタミンD水酸化体についてはそのような生産報告はない。本研究では、種々のビタミンD水酸化酵素を利用し、多岐にわたるビタミンD水酸化体について簡便に取得することを目的としたものである。本年度は、活性型ビタミンD2の効率的な生産法の確立を中心に行った。我々は、これまでに、放線菌由来CYP105A1の二重変異体(R73A/R84A)が、ビタミンD3を基質に高い活性型ビタミンD3生産能を有することを報告してきた。しかしながら、本変異体とビタミンD2を反応させた場合、活性型ビタミンD2の生成はほとんどみられなかった。前駆体である25-ヒドロキシビタミンD2は生成されており、25-ヒドロキシビタミンD2に対する1α位水酸化活性が極めて低いことが原因であると考えられた。この可能性を、R73A/R84Aの立体構造をもとにした分子モデリングにより調べたところ、ビタミンD2側鎖の自由度が低くMet239が障害になっている可能性が示唆された。この立体障害を除くために、3重変異体R73A/R84A/M239Aを作製したところ、25-ヒドロキシビタミンD2に対する1α位水酸化活性が付与されることがわかった。現在、他の水酸化体についても効率的な生産法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したとおり、活性型ビタミンDを含めたビタミンD水酸化体の安価な生産が求められている。我々は、長年、種々のビタミンD水酸化酵素の機能解析を行っており、当初、それらを用いた活性型ビタミンD3生産を最重要課題と考えていた。しかしながら、活性型ビタミンD3については、近年バイオコンバージョン方による安価な生産法が実用化されたことから、活性型ビタミンD3と側鎖構造が異なる活性型ビタミンD2生産を最重要課題とした。活性型ビタミンD2は、活性型ビタミンD3と同様に生理活性の高い有用な化合物であるが、バイオコンバージョン法による生産報告が皆無である。これまでに我々は放線菌由来CYP105A1二重変異体(R73A/R84A)がビタミンD3を基質として高い活性型ビタミンD3生産能を有することを明らかにしていたが、本変異体を用いてビタミンD2を代謝させても、活性型ビタミンD2を得ることができなかった。前駆体である25-ヒドロキシビタミンD2は生成されており、25-ヒドロキシビタミンD2に対する1α位水酸化活性が極めて低いことが原因であると考えられた。R73A/R84Aと25-ヒドロキシビタミンDのドッキングモデリングを参考に、R73A/R84Aにさらに変異を重ね、R73A/R84A/M239Aが、25-ヒドロキシビタミンD2に対する1α位水酸化活性を有することを明らかにした。すなわち、この変異体を利用して、25-ヒドロキシビタミンD2を基質に活性型ビタミンD2が生産可能となる。一方で、本変異体はビタミンD2から、25-ヒドロキシビタミンD2を生成する能力は低下しており、安価な生産を実現するためには、別途、25-ヒドロキシビタミンD2生成系と組み合わせる必要がある。我々はすでに、25-ヒドロキシビタミンD2生成系を確立しており、安価な活性型ビタミンD2生産の実現が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に取得したCYP105A1三重変異体(R73A/R84A/M239A)は、25-ヒドロキシビタミンD2の1α位水酸化活性を有していたことから、25-ヒドロキシビタミンD2を基質に活性型ビタミンD2が生産可能な酵素である。2年目は、取得した変異体を放線菌もしくは大腸菌内で発現させてバイオコンバージョン法による生産を目指す。本酵素を用いた場合、安価なビタミンD2を基質とした場合には、活性型ビタミンD2の生産性が低いことが予測されることから、別途、25-ヒドロキシビタミンD2を提供する系と組み合わせる。25-ヒドロキシビタミンD2を提供する系として、紫外線を照射した組換え酵母を利用する。これは、酵母内在性のエルゴステロールが紫外線によりビタミンD2へと変換されることを利用したものであり、これまでに、CYP2R1発現酵母を利用して、基質を全く添加することなく、25-ヒドロキシビタミンD2が生成可能であることを報告している。CYP105A1三重変異体と紫外線照射CYP2R1発現酵母を組み合わせて、活性型ビタミンD2の安価な生産を目指す。また、現在、他のビタミンD水酸化酵素(CYP24A1、CYP27A1、CYP27B1)の放線菌を宿主とした発現系も構築中であり、種々の水酸化酵素系を組み合わせることで、多数存在するビタミンD水酸化体生成の取得および、生理活性の知られていない化合物については生理活性評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
安価なビタミンD2から活性型ビタミンD2を得るには、1位と25位の両方の水酸化能が必要である。使用した酵素は、1位水酸化活性が低かったことから、1位水酸化活性を上昇させた変異体探索を行ったが、予想していたよりも少ない変異体の構築で、目的の性質を有する酵素を取得することができた。これにより、1年目の予算が少なく研究を執行することができた。一方で、今回取得した変異体は予想外に、25位水酸化能は低下しており、目的物質の生産を行う場合には、当初予定した方法と異なり、生産方法を工夫する必要がある。生産時の条件検討を2年目の研究に追加する。
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次年度使用額の使用計画 |
1年目に取得した変異体を利用した活性型ビタミンD2生産系を確立するため、生産時の条件検討を行う。活性型ビタミンD2以外のビタミンD水酸化体については、現在、最適な酵素発現系を取得中であり、発現系が確立した後に生産性を調べる。また、確立した方法で取得した水酸化体のうち、生理活性の知られていない化合物については生理活性評価を行う。したがって、2年目の予算については、代謝物分析用試薬、遺伝子工学用試薬、培地、生理活性評価用試薬を中心に使用する。
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