研究課題/領域番号 |
15K18689
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
岩崎 崇 鳥取大学, 農学部, 助教 (30585584)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞膜透過ペプチド / 薬物輸送 / ヒスチジン / 植物細胞 / リポソーム / 腸管上皮細胞 |
研究実績の概要 |
細胞膜透過ペプチドは、有効な薬物輸送キャリアーとして現在注目を集めている。申請者は、これまでの研究から、『ヒスチジンのみが連続したペプチド:ポリヒスチジンが極めて高い細胞膜透過能を有する』という新知見を世界に先駆けて見出した。そこで本研究では、ポリヒスチジンを様々な分野に応用するべく、ⅰ)トランスフェクション試薬(学術分野)、ⅱ)飲み薬(医療分野)、ⅲ)植物制御剤(産業分野)への応用研究を遂行した。 ポリヒスチジンを利用したトランスフェクション試薬を開発するために、核酸の輸送キャリアーとしてリポソームを使用した。リポソームの表面に長鎖ポリヒスチジン(H16)を修飾した長鎖ポリヒスチジン(H16)修飾リポソームを調製し、分子挙動を調べた。その結果、長鎖ポリヒスチジン(H16)修飾リポソームは特に付着系細胞株に対して高い細胞膜透過を示し、既存の細胞膜透過ペプチド(オクタアルギニン)を修飾したリポソームよりも高い透過効率を有していることが明らかになった。 また、ポリヒスチジンを利用した飲み薬(経口DDS)を開発するため、ポリヒスチジンの腸管上皮透過能を評価した。人工的に形成した腸管上皮(CaCo-2細胞)を用いたトランスウェルアッセイを行った結果、長鎖ポリヒスチジン(H16)は明確な腸管上皮透過能を示すことが分かった。さらに興味深いことに、既存の細胞膜透過ペプチド(オクタアルギニン)と比較した場合、長鎖ポリヒスチジン(H16)の腸管上皮透過能はより高効率であり、また迅速である(初速度が大きい)ということが明らかになった。 さらに、ポリヒスチジンを植物に対しても応用するべく、ポリヒスチジンの植物細胞に対する細胞膜透過を解析した。共焦点レーザー顕微鏡による定量解析の結果、植物細胞に対しては短鎖ポリヒスチジン(H6~H10)が高い細胞膜透過を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、ポリヒスチジンを様々な分野に応用するべく、ポリヒスチジンを利用したⅰ)トランスフェクション試薬(学術分野)、ⅱ)飲み薬(医療分野)、ⅲ)植物制御剤(産業分野)の開発研究を遂行した。H27年度は、上記三つの研究計画すべてにおいて、基礎的な知見ではあるが、ポリヒスチジンの高い応用性を立証することのできる成果を得ており、進捗状況は順調であると言える。 その中でも特に、ⅰ)トランスフェクション試薬への応用を志向したポリヒスチジン修飾リポソームの開発研究においては、高い研究成果が得られており、研究計画の初年度にもかかわらず、特許出願(特願2015-150709:ポリヒスチジン修飾リポソーム)を行うことができた。 以上の理由から、H27年度の本研究の進捗状況は『当初の計画以上に進展している』と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度は、ポリヒスチジンの応用研究に必要な基礎的知見を得ることができた。そこで、今後(H28年度)は応用研究をさらに発展させるために、より実用性の高い知見を得ることを目標とする。具体的な推進方策を以下に示す。 【トランスフェクション試薬(学術分野)への応用研究】 長鎖ポリヒスチジン(H16)修飾リポソームがトランスフェクション試薬として有用であるかを評価するために、長鎖ポリヒスチジン(H16)修飾リポソームが細胞内に取り込まれた後の細胞内挙動を解析する。併せて、長鎖ポリヒスチジン(H16)修飾リポソームに核酸を内包する際の最適条件の探索と、核酸を内包した長鎖ポリヒスチジン(H16)修飾リポソームによるトランスフェクション効率を測定する。 【飲み薬(医療分野)への応用研究】 長鎖ポリヒスチジン(H16)が飲み薬(経口DDS)の輸送キャリアーとして実用できるかを評価するために、長鎖ポリヒスチジン(H16)に低分子ペプチドまたは高分子タンパク質を融合して、長鎖ポリヒスチジン(H16)融合化合物の腸管上皮透過を評価する。具体的には、長鎖ポリヒスチジン(H16)融合インスリンや長鎖ポリヒスチジン(H16)融合蛍光タンパク質(GFPまたはRFP)を調製し、『飲むインスリン』や『飲むタンパク質』の実現が可能であるかを評価する。 【植物制御剤(産業分野)への応用研究】 短鎖ポリヒスチジン(H6~H10)を利用した植物制御剤の開発を目指して、ポリヒスチジン融合タンパク質の植物細胞内への導入実験を行う。具体的には、短鎖ポリヒスチジン(H6~H10)融合蛍光タンパク質(GFPまたはRFP)を調製し、植物細胞内に効率的に取り込まれる最適条件の探索を行う。これにより、植物細胞内へのタンパク質導入の最適手法を確立し、植物ホルモンなどの生理活性タンパクに応用することで、植物制御剤の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本農芸化学会2016年大会(2016年3月27日~30日)参加に係る旅費を抑えることができたため、余剰金(次年度使用額)が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の次年度使用額(62,392円)は、H28年度の旅費として使用する予定である。
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