研究課題
植物香気成分として知られるフェニルプロペン類は、ベンゼン環(C6)に直鎖状プロペン(C3)が結合したC6-C3を基本骨格とする化合物群であり、プロペン側鎖の立体構造とベンゼン環の置換基の2点において構造多様性が見られる。申請者を含めた最近の知見(Koeduka et al., Plant Biol. (2011))から、フェニルプロペン化学構造のわずかな違いが、抗菌作用や植食性動物に対する忌避作用など生物活性や香気成分の匂い特性に影響を与えることが明らかとなっている。その一方で、化学構造の多様性を規定する生合成酵素の単離ならびにその反応機構についての報告は未だ数少ない。そこで本研究では、ベンゼン環(C6)部分をプレニル化およびメチレンジオキシ環化する従前未解明の酵素の単離、機能解析を行うこととした。現在までに、非揮発性の芳香族化合物であるリグナンやアルカロイドを基質とするメチレンジオキシ環化酵素やフラボノイドなどのポリフェノールをプレニル化する酵素については、徐々に報告例が増えてきている。本研究で単離を目指す候補遺伝子は、これら既報の酵素遺伝子と相同性が高いことが予想されることから、芳香族香気成分であるフェニルプロペン類を多く生成する組織に着目し、候補遺伝子のスクリーンニングおよび絞り込みを行った。H28年度においては、プレニル基やメチレンジオキシ環を有するフェニルプロペン類を生成するシキミ(Illicium anisatum)やディル(Anethum graveolens)からRNA を単離し、次世代シーケンス解析による候補遺伝子の探索を行った。さらに、候補遺伝子の酵素機能を解析するため、タバコでの一過的発現解析ならびに代謝物変換解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
プレニル化オイゲノールを高蓄積するシキミから、トマト由来のプレニル化酵素遺伝子と78%のアミノ酸相同性をもつ全長遺伝子(1197 bp)を単離した。次に、この遺伝子を植物発現用のバイナリーベクターに挿入し、タバコ葉での一過的発現解析を行った。しかしながら、オイゲノールを基質とした場合、代謝物変換によるプレニル化合物の検出は見られなかった。そこで更なる候補遺伝子の探索として、アネトールのプレニル化体であるフェニキュリンを蓄積するアニス(Pimpinella anisatum)から、縮重プライマーを用いたプレニル化酵素遺伝子のクローニングを行った。その結果、パセリから単離されたクマリン特異的プレニル化酵素遺伝子と47-57%のアミノ酸相同性を有する2つの異なる遺伝子断片(約300 bp)を獲得することに成功した。現在、RACE-PCR法を用いた全長遺伝子のクローニングを進めている。一方で、ミリスチシンやディルアピオールを生成するディルからメチレンジオキシ環化酵素遺伝子をコードすると考えられる3つの全長候補遺伝子を単離することに成功した。これら候補遺伝子の発現パターンは、香気成分の組織別蓄積プロファイルと相関があり、リグナンのメチレンジオキシ環化酵素と32-55%のアミノ酸相同性を示した。現在、タバコ葉での一過的発現系を用いて環化活性を調べている。
今後は、アニスを含めた他の植物種からも更なる候補遺伝子の探索、全長遺伝子の単離を継続する。また、当該酵素活性の検出を行うため、タバコ一過的発現系に加え、酵母や昆虫細胞などを発現宿主として組換え酵素の最適な発現系を構築する。
他の研究費との兼ね合いから、物品費など予定よりも少額で済んだため、次年度予算へと繰越すこととなった。
次年度に予定している組換え酵素を用いた当該酵素の機能解析に使っていきたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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