スフィンゴ脂質は、細胞膜の構成成分としてだけでなく、様々な生理機能を有することが知られている。スフィンゴ脂質の機能性については、生体内の局所に注目した研究が大部分であるが、栄養素成分としてのスフィンゴ脂質といった観点からはあまり評価されていない。そこで本研究では、栄養素の取り込みの変化が様々な疾患の発症に影響を与えうることに注目し、スフィンゴ脂質と様々な栄養素の吸収や動態との関わりを明らかにすることで、食餌性スフィンゴ脂質の新たな可能性を見出すことを目的とした。 様々な食品素材由来のグルコシルセラミドまたはそれを構成するスフィンゴイド塩基を単離、精製した。小腸上皮様に分化させたCaco-2細胞に各スフィンゴ脂質を添加し、24時間後の各種栄養素のトランスポーターのmRNA量をリアルタイムRT-PCRで、細胞内の各スフィンゴ脂質量をLC-MS/MSで調べた。このとき同時に、各グルコシルセラミド処理後の細胞のDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、植物由来および真菌類由来のグルコシルセラミドとスフィンゴイド塩基は、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルの取り込みに関わるトランスポーターのmRNA量を増加させることがわかった。一方、細胞内における内因性のスフィンゴ脂質量には有意な変化が認められなかった。また、顕著な変化が認められたトランスポーターについて、タンパク質の発現量を調べた。その結果、銅イオンの取り込みに関わるトランスポーターであるCTR1の二量体化を促進すること、鉄イオンの細胞内への取り込みに関与するDMT-1の糖鎖修飾体が増加することで鉄イオンの吸収を促進することが明らかとなった。本研究によって、スフィンゴ脂質は、栄養バランスの改善効果や栄養素の取り込み亢進/抑制作用などの新たな機能性を有することが明らかとなった。
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