研究課題/領域番号 |
15K18696
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
門田 吉弘 名古屋大学, 生命農学研究科, 研究員 (10724776)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分岐鎖アミノ酸 / 分岐鎖アミノ酸分解系 / 脂肪組織 / コンディショナルノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
肥満がインスリン抵抗性を引き起こす1つのメカニズムとして、脂肪組織の慢性炎症を介した経路が報告されている。研究代表者らは、2型糖尿病モデルラットを用いた予備実験において、分岐鎖アミノ酸(Branched-Chain Amino Acid: BCAA)の長期摂取が、脂肪組織における慢性炎症を抑制し、その結果インスリン抵抗性が改善される可能性を見いだした。 そこで本研究では、ほ乳動物の体内でBCAA分解を調節(抑制)する酵素である分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素キナーゼ(BDK)を脂肪組織特異的に欠損させることで脂肪組織特異的BCAA不足動物を作製し、肥満によって誘導される脂肪組織の慢性炎症におけるBCAAの生理機能及びそのメカニズムを解明する。 平成27年度は、脂肪組織特異的BDKノックアウト(KO)マウスの作製および特徴解析を行った。すでに作製が完了していた、BDK遺伝子のエクソン9-12(BDK活性部位をコードするエクソン)をloxPで挟み込んだマウス(BDK-floxedマウス)と、脂肪組織特異的に発現するアディポネクチンのプロモーター配列を持つCreリコンビナーゼ遺伝子を導入したトランスジェニックマウスとを交配させることで、Creトランスジーンを持つ(Cre+) BDK-floxedヘテロマウスを作製した。さらにこれらを交配させることで(Cre+) BDK-floxedホモマウス(脂肪組織特異的BDK-KOマウス)を作製し、特徴解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作製した脂肪組織特異的BDK-KOマウスの脂肪組織(腎周囲脂肪、後腹膜脂肪、副睾丸周囲脂肪、褐色脂肪組織)、その他の組織(肝臓、骨格筋、心臓、腎臓、脾臓、睾丸(雄)、脳)を採取し、組織中のBDKをウェスタンブロット法で検出した結果、脂肪組織のみでBDK が欠損していることが確認された。 脂肪組織特異的BDK-KOマウスとBDK-floxedマウス(対照群)の下大静脈より採血を行い、血漿中のアミノ酸濃度を測定した。その結果、両群間の血漿BCAA濃度に有意な差は見られなかった。過去の研究において、脂肪組織のBCAA代謝によって血中BCAA濃度が調節を受ける可能性が報告されているが、本年度の研究結果はこの説を否定する新規かつ重要な結果であると言える。 現在、脂肪組織中に含まれるBCAA濃度を測定中であり、脂肪組織特異的にBCAAが不足していることを確認している。以上より、申請書に記載した研究計画とほぼ同様の進捗状況であると判断し、「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪組織中に含まれるBCAA濃度の測定を速やか実施し、脂肪組織特異的BDK-KOが脂肪組織中に含まれるBCAA濃度に与える影響を明らかにする。 その後、脂肪組織特異的BDK-KOマウス及びそのコントロールマウス(BDK-floxedマウス)に高脂肪食を給餌し、経時的に解剖を行う。血液及び脂肪組織(腎周囲脂肪、後腹膜脂肪、副睾丸周囲脂肪、褐色脂肪)を採取する。採取した脂肪組織の一部は、組織染色のために4%パラホルムアルデヒド中に保存し、残りの組織はフリーズクランプによる急速凍結後、解析まで-80℃で保存する。 4%パラホルムアルデヒド中に保存した各脂肪組織を用いて組織切片を作製し、脂肪細胞の大きさや浸潤したマクロファージをヘマトキシリン・エオジン染色及び抗Mac-1抗体を用いた免疫染色によって解析することで、脂肪細胞の肥大化やマクロファージの浸潤に対するBCAAの生理機能を調べる。 解剖時に採取した血液より血漿を取り出し、炎症性サイトカイン(TNFα及びIL-6、MCP-1など)の濃度を各種キットを用いて測定する。さらに、解剖時に採取し、凍結保存した各脂肪組織における炎症性サイトカイン(TNFα及びIL-6、MCP-1など)のmRNA量をリアルタイムPCRを用いて定量することで、肥満によって肥大化した脂肪組織や、浸潤したマクロファージによって誘導される炎症性サイトカインの産生・分泌に対するBCAAの生理機能を調べる。 凍結保存した各脂肪組織よりタンパク質を抽出し、炎症性シグナル伝達物質の中でもインスリン抵抗性と深く関わり、様々な炎症性サイトカインによって活性化されることが報告されている、JNK及びNF-κB、IKKの脂肪組織における活性(リン酸化)をウェスタンブロット法によって定量することで、脂肪組織における炎症性シグナル伝達に対するBCAAの生理機能を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、脂肪組織特異的BDK-KOマウスの血漿BCAA濃度のみを測定しており、脂肪組織およびその他の組織におけるBCAA濃度の測定は実施していない。そのため、アミノ酸分析に必要だと予想された物品費が使用されなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
脂肪組織およびその他の組織におけるBCAA濃度の測定に必要な物品費として使用する。
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