研究課題/領域番号 |
15K18698
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
本同 宏成 広島大学, 生物圏科学研究科, 講師 (10368003)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 油脂移行 / チョコレート / 拡散 / 毛管力 / ファットブルーム |
研究実績の概要 |
チョコレート保存時の劣化である,チョコレート表面における白色化現象「ブルーミング」を解決するために,その発生機構を明らかにする必要がある.特に,ビスケット生地などにかかっているチョコレートでは,ビスケット生地中に含まれる油脂成分がチョコレートへと移動し,それがもとでブルームが起きるといわれているが,油脂成分がどのようにチョコレート内へと移動するのか,その機構はよくわかっていない.本研究ではこの油脂移行がどのように起きるのかを明らかにするため,電子顕微鏡と元素分析法を組み合わせたSEM-EDXにより,油脂移行を観察する新たな手法を開発した.本手法により,油脂移行にはこれまでに提唱されている,拡散および毛管力による2種類の油脂移行の他に,速度の異なるもう一つの移行機構が存在することを明らかにした.またこれらの油脂移行機構から,チョコレート内の構造を予測することができるため,現在その解析を行っている.また併せて,より詳細な内部構造予測を行うために,表面の孔構造の観察や,孔からの液状油噴出などの観察を行っている. この他,チョコレート内のカカオマスや砂糖などの微粒子が油脂移行に及ぼす影響について評価した.チョコレートの断面観察から,カカオマスの分布を測定し,油脂移行経路との関係をみたところ,分布と移行経路には特に相関が見られなかった.このことは油脂移行経路形成に微粒子は直接的に関わっていないことを示す.しかしながらチョコレート固化時の体積収縮などを介した間接的な影響までは不明であるため,今後はチョコレート内部の微細構造解明と,油脂移行の直接観察を目指す予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画として,1,チョコレート中の粒子の周囲における油脂移行を観察,2,油脂移行により噴出する液状油の分布や密度を測定,3,内部におけるチャネルの分岐構造解明,4,液状油の噴出量およびブルーム程度を定量化,5,チョコレートの作製,以上の5点を目的として研究を行ってきた.1の粒子周辺の油脂移行観察では,EDX観察による移行量の定量化に成功した.その結果,粒子周辺では特に油脂量は多くなく,粒子は油脂移行に関与しないことが示唆された.しかしながら,より高分解能の観察により,粒子表面の様子を明らかにする必要がある.2の液状油の分布,密度測定は現在進行中である.現在のところ試料の表裏による違いは認められていないが,試料による差が大きいため,試料の製造,保存の影響が大きいと考えられる.3の内部における分岐構造解明では一定の結果を得た.表面に現れる油滴の分布から内部構造を評価したところ,油脂移行経路はチョコレート内で分岐しており,広がりがみられた.しかしながらその分岐方向は等方的であり,冷却等による異方性は確認されなかった.4の液状油の噴出量の定量化では,2と同様試料による差が大きく,適正な評価が困難である.しかしながら印象としては表裏で違いが存在するように感じられる.有為差の評価が今後の課題である.最後の5チョコレートの作製は現在調整中である.種結晶を用いたチョコレート作製を試みており,一定の成果を上げている.今後,油脂移行実験にも使用していく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの市販のチョコレートを用いた実験で,チョコレート内部構造に対して知見が得られる可能性が示唆された.またチョコレート内のシリコンオイル移行機構についても,より詳細なデータが得られる可能性が示された.このため,計画時は,2年目に自作のチョコレートを用いて実験を行う予定であったが,これまで通り市販のチョコレートを用いた研究を2年目も継続する予定である.加えて自作のチョコレートも用いることで,内部構造と油脂移行経路の関係を明らかにしていく.現在は大きな板状チョコレートの作製は困難なため,計画通り小さなチョコレート片を作製し,観察に用いる予定である.加えて保存温度と油脂移行速度の関係にも着目して研究を行う.チョコレートは保存温度により固体脂含量が変化するため,油脂移行速度も変わる可能性がある.このことは保存に適した温度を見いだすためにも重要である.
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