最終年度はこれまで検討できていなかったリグニン前駆体を用いて抗原-リグニン複合体を作成し,その物性を検証した。これまで主に使用していたカフェ酸に加え,フェルラ酸,クマル酸を用いた,モデル抗原としては同様にOVAを用いて複合体形成を試みた。カフェ酸以外のプレカーサーを用いても,これまでに検討してきた方法を応用することで抗原-リグニン複合体が同様に形成された。またマクロファージ様細胞株へのOVAの輸送も,抗OVA抗体を用いた蛍光染色により確認された。各種リグニンOVA複合体をBALB/cマウスへ投与したところ,カフェ酸,フェルラ酸,クマル酸の各プレカーサーを用いた重合体によってOVAに対するIgG抗体が強力に誘導された。一方で抗原特異的IgEの産生は認めなかった。しかし,フェルラ酸,クマル酸を用いたOVA複合体と抗OVA-IgE抗体との反応性を評価したところ,抗体と抗原の結合は抑制されていたものの,カフェ酸を用いた複合体と比べて顕著な差は認められなかった。さらに,複数のタイミングでカフェ酸を添加して作成した抗原-リグニン複合体も抗OVA-IgE抗体との結合性はOVA単体と比べると大幅に減弱していたが,好塩基球(RBL-2H3)からヒスタミン放出を抑制するには十分とはいえなかった。複合体化によってOVAを特異的IgEから完全に保護するためには,さらに多くの条件(例えばpHの変化,塩濃度,温度,酵素の種類など)を網羅的にかつ詳細に検証する必要があると考えられ,安全性を確保した形状の複合体作成は今後の検討に期待する。
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