本研究では、温暖化にともない北海道北部で観察されている雪解け時期の早まりが、大型土壌動物ミミズを介して、土壌の窒素利用可能量、そして、北海道の主要造林樹種であるカラマツの成木へ及ぼす影響について評価した。 本年度の積雪期に実施した自作のメソコズムを用いた野外実験から、雪解けが早まると、春先の土壌中の硝酸態窒素の利用可能量は増加することが明らかになった。一方、雪解け直後では、雪解け時期の早まりによる土壌窒素への影響程度は、越冬したミミズの存在の有無およびミミズの個体サイズの違いに関わらず同程度であった。つまり、雪解けの早まりによる土壌中の硝酸態窒素の増加は、ミミズなどの大型土壌動物ではなく、他の土壌動物や土壌微生物の活性が増加したことによるものであることが示唆された。 また、実際の森林において大型土壌や雪解けの早まりが成木へ及ぼす影響を評価するため、北海道大学研究林内において成木の周辺を対象として2年目の雪解け時期やミミズ個体数を操作する実験を実施した。その結果、メソコズムの結果と一貫して、雪解けの早まりは実際の森林でも植物が利用可能量なへの硝酸態窒素量を増やしたが、その増加程度は、ミミズ個体数に関わらず同程度だった。また、雪解け時期の違いによる土壌中の硝酸態窒素の変化は、成木へは影響を及ぼさなかった。 これらの結果は、雪解け時期の早まりは、ミミズではない土壌生物を介して土壌の窒素動態へ影響を及ぼすが、雪解けの早まりにより増加した硝酸態窒素は、樹木ではない生物(土壌微生物など)に吸収されるか、土壌下層へ流亡してしまうなどして樹木には利用されないことを示唆している。これらの成果は、積雪地で懸念されている雪解け時期の早まりは、数年という短期間でも森林土壌の窒素循環へは影響を及ぼすが、成木へ及ぼす影響は小さいことを示している。
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