現在日本国内ではニホンジカ(以下、シカ)の分布拡大と個体数増加による森林下層植生の衰退が問題となっている。シカと同じく大型の草食動物であるカモシカとシカ(以下、両種)とが同所的に生息する地域においては、生息域や餌資源を巡る両種間の競争が生じていると考えられている。しかしながら両種間の種間関係についての研究は少なく、詳細は不明である。本研究では岐阜大学位山演習林(岐阜県下呂市)にて両種の種間関係の一端を明らかにするため、(1)林内に20台の自動撮影装置を設置して両種の土地利用傾向を明らかにするとともに、(2)次世代シーケンサーを用いたDNAバーコーディングによって両種の餌植物の同定を実施した。 (1)2014年~2016年の3年間にわたって撮影された自動撮影装置の映像を解析したところ、カモシカの撮影頻度は春にゆるやかなピークを示した後、冬に向かって漸減していた。一方でシカの撮影頻度は8~9月に非常に明瞭なピークを持つことが明らかとなった。(2)シカ・カモシカの糞、計146サンプルについて、次世代シーケンサーによるDNAバーコーディングを実施し、両種の採食植物の種構成に関するデータを得た。データを分析した結果、シカおよびカモシカは、特定の種で出現頻度に偏りが見られたものの、種構成自体はほぼ差がないことが明らかとなった。また、顕微鏡を用いた糞分析の結果、シカはササ、カモシカは双子葉植物の構成割合がそれぞれ大きいことが明らかとなった。 これらの結果から、(1)位山演習林には両種が同所的に生息しているが、森林内の利用頻度には両種間で差があり、それらの採食行動が森林に与える影響にも種間で相違があること、(2)両種の採食植物は量的には差があるが種構成には差がないため、シカによる下層植生の衰退は両種の餌資源の競合をより強める可能性があること、が示唆された。
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