我が国の主要な造林木の多くは、針葉樹である。一般的に、針葉樹などの樹木は、草本植物に比べて生長が遅く、苗木の生産には時間がかかる。そこで、本研究では、草本植物で生産効率を上昇できる葉緑体運動の改変技術を針葉樹の苗木生産に応用することで、針葉樹の苗木生産効率を高めるることができるか調べた。一年目は、まずはじめに、葉緑体運動をハイスループットに解析できる装置を作成した。葉緑体運動の変化を葉の透過率で測定するために、吸光度を指標にし、一度に大量の吸光度を測定できるマイクロプレートリーダを測定装置として用いた。さらに光の制御を行うために、LEDライトをプレートリーダートに取り付け、装置を作った。装置で測定が可能であることを草本植物で確認したのち、スギ、ヒノキ、コウヨザンで、基盤となる葉緑体運動が存在するか調べた。その結果、実生苗では葉緑体運動が確認されたのに対し、成木では顕著な葉緑体運動がみられなかった。また、他の針葉樹の成木(サワラ、クロマツ、イヌガヤ、イチイ)においても同様の解析を試みたが、顕著な葉緑体運動を示す植物種はなかった。2年目は、実際に葉緑体運動の改変技術が、針葉樹の苗木生産に有効であるかを調べた。葉緑体運動は光の質と量で変化するため、実生苗について光の制御により葉緑体運動を改変し、バイオマス量を調べた。その結果、葉緑体運動を改変した方が、バイオマスが大きくなることが分かった。これらの知見により、葉緑体運動を改変することにより、苗木の生産性を向上できることが分かった。
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