研究実績の概要 |
グイマツ精英樹等29家系と、比較対象としたカラマツ属他種10サンプルのそれぞれにおいて、葉緑体DNA抽出、大規模塩基配列解析、葉緑体全ゲノム解読のすべてが今年度までに完了した。このうちグイマツ3家系については先行して国際学術誌にて発表するとともに、葉緑体のドラフトゲノム配列と遺伝子情報をデータベース(DDBJ)上で公開した。解読した葉緑体ゲノムの塩基数は、グイマツの場合122,553~122,598塩基であることを明らかにした。 上記のゲノム解読によって得た全配列の比較によって網羅的な遺伝変異情報を収集し、系統とその歴史的動態を推定した。その結果、グイマツの中に大きく4つのクレードを認めることができ、色丹島(千島)にルーツを持つクレードが2つ(クレード1、3)、サハリン(樺太)にルーツを持つクレードが2つ(クレード2、4)あると推定された。これらの遺伝的分化は浅く約70万年前以降であること、ならびに、色丹島ルーツのクレードが派生的であることが分かった。さらに、グイマツ精英樹や遺伝資源の中には、別変種や別種としてまとめられるチョウセンカラマツやダフリカカラマツに分類されるものがあることが新たに分かった。これら3種を1つの複合種(Larix gmelinii complex)とする分類の妥当性が指摘された。 これまで精英樹台帳やフェノロジーなどの表現型に基づいて2系統(推定千島系統、推定樺太系統)が推定されている。クレード3,4に含まれる精英樹の推定系統には矛盾がなかったが、クレード1,2では推定系統が正しくそのルーツを反映していないことが明らかになった。また、育種利用はクレード1に偏っていることが指摘でき、今後はクレード間の交配など効率的な育種プログラムの推進が望まれるとまとめられた。
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