本研究は、福島県における天然特用林産物の供給サービスが、東京電力福島第一原子力発電所事故の前後でいかに変化したかを定量化し、将来のサービスの量や地理的な利用可能範囲の回復可能性を予測することを目的としている。そこで、県内で事故原発に近く放射能汚染が比較的高い双葉郡川内村と、事故原発から遠く放射能汚染が低い南会津郡只見町東部を対象に、天然山菜・きのこ採り、渓流釣り、落ち葉・刈り草堆肥利用などの事故前の状況や事故後の変化を、昨年度までに聞き取り調査と全戸対象の質問紙調査から明らかにしてきた。 本年度は、放射能汚染が比較的高い地域が含まれる双葉郡川内村を対象に、事故前に天然山菜・きのこ採りによく出かけていた方々10名に、当時よく採っていた山菜・きのこ各数種類の採取環境条件を対面形式アンケートで捉え、階層評価法(AHP法)などにもとづく多基準評価法で定量化し、地形条件や植生や道路からの距離などの地理情報を用いて採取適地分布を推定した。さらに、航空機モニタリングデータを用いて放射性セシウムの物理的減衰にもとづく将来の空間線量率変化を2050年まで予測し、追加的な外部被ばくの観点から、かつての採取適地がどのように失われ、将来どのように回復していくかを予測した。その結果、山菜・きのこの種類毎に採取適地の分布傾向が異なることや、村内の比較的高線量の場所で採取地の減少が大きく、より回復に時間が掛かること、低頻度の採取であれば追加的な外部被ばく量を十分に小さくできる可能性があることなどを、地理的・視覚的に定量化できた。
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