これまでに応募者らは,経年にともなう物性変化と乾熱処理にともなう物性変化を速度論的に比較して研究を行ってきた.その結果,木材の経年変化メカニズムを解明するためには,乾熱処理によって再現される熱酸化反応だけではなく,湿熱処理によって再現される水分が関係する反応の影響も考慮する必要があることが示された.そこで本研究では,湿熱処理にともなう物性変化と,経年による物性変化を速度論的に比較することにより,経年変化の温度依存性,水分依存性,さらにはそれらの繰り返し効果を考察する.これにより,木材の経年変化を,熱と水分の両方が関わる物理化学的反応として理解することを目指す. 本年度は,昨年度までに様々な処理条件(温度65℃~95℃,相対湿度65%~95%)でおこなった湿熱処理によって得られたデータをより詳しく考察した. 湿熱処理による平衡含水率について,測定方法を改良して再測定をおこなった結果,伐採から乾燥までの間に起こった可逆的な吸湿性の変化と,処理により起こった可逆的な吸湿性の変化,および処理により起こった不可逆的な吸湿性の変化の組み合わせによって説明できるであろうことが分かった.確認のための追加実験として処理後試験片の吸湿処理を行い,再吸湿によって可逆的な含水率変化と不可逆的な含水率変化を分離することを試みる. 昨年度のデータをさらに詳しく解析したところ,今回実験した相対湿度の範囲(65%~95%)の間では,色変化の速度が湿度に対して線形的に見えるものの,先行研究で行った全乾状態での熱処理のプロットまで含めると,低湿度側で大きく速度が小さくなる曲線的な関係であることが分かった.これは,湿熱処理による色変化をもたらす化学反応に,木材細胞壁の吸湿性が関わっていることを示唆しており,0%から65%の挙動を明らかにする必要がある.
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