本研究の目的は、林地残材から大量に得られる精油に新たな利用価値を見出し、未利用森林資源の新規有効利用法を検討することである。主な内容は、1)揮発特性および酸化特性を利用した人為的処理、2)処理葉油が示す生物活性の評価、3)高反応性成分に着目した新たな針葉樹原料の探索の3点である。本年度は、加熱・紫外線処理で高い反応性が認められたp-メンタジエン骨格成分の内、マツ科の葉油に比較的多く含まれるβ-フェランドレンに着目し、上記1)、3)に関わる内容について①加熱・紫外線照射処理に伴う生成物の分析、②高い反応性成分を多く含む未利用針葉樹原料の探索の2点を中心に検討した。 ①について、β-フェランドレンを比較的多く含むクロマツおよびトドマツ葉油に対して加熱および紫外線照射処理を行った結果、短時間で著しく消失した。生成物として少量のクリプトンが認められたがその生成量は限定的であり、大半が重合物等へと変化した可能性が考えられた。続けて、長時間の加熱処理によってタール状物質へと変性したクロマツ葉油をPy-GC分析に供した結果、主な熱分解物としてβ-フェランドレンおよびp-シメンを検出した。よって、8割以上の構成成分が酸化重合等により消失したタール様のクロマツ葉油であっても、上記の2成分はその化学構造を維持したまま劣化葉油中に存在している可能性が強く示唆された。 ②について、トドマツ3個体の各部位(葉、球果、新梢、枝材、枝樹皮、内外樹皮、心辺材)におけるβ-フェランドレン含有量を詳細に検討した。各ヘキサン抽出物をGC分析に供した結果、特に新梢、枝樹皮、外樹皮の3部位にβ-フェランドレンが多く含まれ、枝樹皮および外樹皮では乾重あたり平均1.0%前後の含有量が認められた。これらの結果から、トドマツの樹皮がβ-フェランドレンを多く含む特徴的な精油の抽出原料として有用である可能性が示された。
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