シリコーンオイル(S.Oil)と培養液の界面で酢酸菌がセルロースを産生することに着目し,報告例のない中空球状バクテリアセルロース(BC)ゲルが得られることを見いだした. 培養液の比重は1.02であるため,比重1.02より重いS.Oilと軽いS.Oilの2種類から成る混合オイルに培養液を滴下することで培養液滴を形成した.このオイルに浮遊した培養液滴中で酢酸菌を培養することで中空球状BCゲルを得ることに成功した.用いた混合オイルは時間経過により分離するため,液滴同士の接触による巨大化や容器壁面への培養液滴の接触による半球化など,安定して中空球状体のBCゲルを得ることができなかった. そこで動粘度の異なるS.Oilの利用や界面活性剤の添加によって,混合オイル中でより安定して培養液滴を浮遊させる方法を検討した.Spam 85を添加した高動粘度のS.Oilを用いると,混合オイルの分離速度が遅くなり,培養液滴を安定して浮遊できるため,中空球状BCゲルの回収率( = 中空球状BCゲル数 / 培養液滴下数×100)が90 %以上と生産性の向上を明らかにした. セルロース繊維から成るシームレスカプセルである中空球状BCゲルの透過性評価は,モデル薬物に蛍光標識デキストラン(FITC-Dex)を用いて純水中で行った.中空球状BCゲルの外膜は,網目構造を形成したセルロース繊維から成る薄膜のため,中空体内部に充てんしたFITC-Dexは迅速にゲル外へ放出された.この薬物放出挙動は薬物放出モデルの1つであるHiguchi modelと良好に一致し,セルロース薄膜内の物質の拡散が律速となるFick型であった.このような挙動は,どの方向からでも薬物が同じ速度で放出されることを示しており,中空球状BCゲルのセルロース薄膜層の膜厚および網目密度が均一であることが明らかとなった.
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