本年度は昨年度に引き続き、以下の3つの研究に取り組んだ。 (1)エゾアワビの産卵と時化、生息水深の関係を明らかにするために、加速度ロガーによる産卵行動のモニタリングを実施した。また、加速度の時系列データから、効率よく産卵行動を抽出するために、連続ウェーブレット変換を用いた解析を改良した。改良した解析方法を水槽内で記録した加速度データに適用したところ、昨年度までの方法よりも簡便かつ正確に産卵行動を時系列データから抽出できることが確認できた。野外調査においては、雌6個体にロガーを装着し調査区に放流し、2個体を回収した。データを解析したところ、2016年と同様に低気圧通過時に産卵していることが確認できた。また、深場に定位していた個体は浅場の個体よりも約1日遅れて産卵していたことから、本研究の目的の1つである産卵タイミングの個体差の存在を明らかにすることができた。
(2)体外受精種であるエゾアワビは、移動能力に乏しく,時化に伴う何らかの環境変化をトリガーとして放精放卵するため,産卵時の個体間距離が受精率に影響する。今年度は、昨年度までに開発した個体ベースモデルを用いて、生息密度が受精率と蝟集サイズ(受精卵の雌雄の組み合わせの数)に与える影響を検討した。結果、2個体/平米の生息密度を下回ると受精率と蝟集サイズが低下しはじめ、1個体/平米を下回ると急激に低下することが示された。
(3)本種が主に利用する生息場やその空間配置を明らかにするために、ドローンによる景観情報の収集と超音波テレメトリーによる本種の移動追跡を行った。結果、本種は餌である大型海藻が繁茂する岩礁の上部やその周辺にある転石帯を主に利用しており、岩礁から離れた転石帯はほとんど利用していないことが分かった。
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