研究課題/領域番号 |
15K18735
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
多賀 悠子 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産工学研究所, 任期付研究員 (40737318)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クルマエビ / 水中音 / 振動 / 繁殖 / 交尾 / 音響 |
研究実績の概要 |
曝気による水中音や振動がクルマエビの交尾行動や繁殖コミュニケーションに与える影響の評価を行った。60cm角水槽および0.5t円形水槽にそれぞれ雌雄1ペアおよび5ペアの親エビを収容し、すべての雌エビが2回脱皮するまで飼育を行い、雌エビの脱皮毎に交尾栓の有無(交尾栓保有率)を確認した。各サイズの水槽において、水槽内で曝気しない対照区、曝気する曝気区(水中音と振動の曝露)、および水中スピーカーで放音するスピーカー区(水中音の曝露)の3区での飼育を行うことで、水中音と振動の影響を分離して評価する予定であったが、後述の通り、対照区と曝気区とで交尾栓保有率に差が見られなかったことからスピーカー区は実施しなかった。60cm角水槽においては、赤外線カメラによる録画を行い、雌エビの脱皮前後の供試個体の行動を解析した。各サイズの水槽における両実験区の水中音場環境は実験開始前にハイドロホンを用いて計測し、底部中心における水中音圧レベルは60cm角水槽の対照区で117dB re μPa、曝気区で123dB re μPa、0.5t円形水槽の対照区で126 dB re μPa、曝気区で133 dB re μPaであった。 60cm角水槽においては、両実験区とも交尾栓保有率は常に0%を示した。一方で、0.5t円形水槽における交尾栓保有率は最大で対照区で50%、曝気区で75%を示したことから、水槽サイズが交尾行動の制限要因となる一方で、曝気による水中音や振動が必ずしも交尾行動を抑制しないことが明らかとなった。60cm角水槽における雌エビの脱皮前後の映像を解析した結果、両区とも雄エビは雌エビの脱皮に対して特徴的な行動は示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クルマエビの交尾行動に対する水中音・振動の影響評価を行い、当初本種の交尾行動の制限要因となると思われた曝気による水中音や振動が交尾行動に必ずしも影響を与えるわけではないことを示す一方で、水槽のサイズが交尾行動の制限要因となることを明らかにした点は、大きな研究の進捗である。このことから、上記の進捗状況とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の実験の結果、水槽サイズが本種の交尾行動の制限要因となることが明らかとなった。一方で、曝気した水槽での交尾栓保有率がほぼ0%を示したこれまでの予備実験の結果とは異なり、平成28年度の実験では曝気による水中音や振動が必ずしも本種の交尾行動を抑制するわけではないことが示された。このことから、曝気による水中音や振動以外のストレス、あるいは水中音などを含む複数のストレスの総合的な作用によって、陸上水槽内での本種の交尾行動が抑制される可能性がある。予備実験と平成28年度の実験とで大きく異なる飼育条件として、水槽側壁をフィルターマットで覆うことで本種の水槽壁への衝突の衝撃を抑えたこと、および底質にサンゴ砂や海砂ではなくアンスラサイトを用いたことが挙げられる。そこで平成29年度は「親エビの交尾に最適な音・振動条件の繁殖水槽を設計し、継続的に高い交尾栓保有率が得られるかを検証する」とした当初の予定と変更して、これらの飼育条件の違いが交尾栓保有率に与える影響を検討することで、親エビの育成に最適な水槽構造を明らかにし、継続的に高い交尾栓保有率が得られるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初実験を予定していた水中スピーカーによって水中音のみを曝露するスピーカー区での飼育実験を行わなかったため、実験に必要な飼育機材や供試エビ数が減少したため、差額分を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は研究協力者が異動した関係で国立研究開発法人水産研究・教育機構瀬戸内水産研究所百島庁舎から同機構水産工学研究所に実施場所を変更するため、当初予定していた実験のための出張旅費は必要でなくなる。また、申請当初は毎年度の成分分析を予定していたが、水産工学研究所では長期の飼育が困難であるため、成分分析は行わず、分析費も必要としない。繰越金およびこれらの研究費分は、実施場所および研究計画の変更によって新たに必要となるクルマエビ飼育のための水槽関連品の購入費に充てる。
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