本研究の目的は東シナ海に生息する重要水産資源であるマサバの回遊パターンを研究することである。本研究では、沿岸から沖合まで広く分布・回遊するマサバの遊泳行動を、バイオロギング手法を利用して計測するというアプローチをとった。昨年度までの実績として、マサバに小型記録計を装着する方法を飼育実験により確立した。また、その手法を天然個体に対して展開し、10月下旬~11月上旬にかけて深度・水温記録計を装着したマサバを対馬海峡に放流した。その結果、1個体が再捕され、約5ヶ月後にわたる行動データを取得することに成功した。今年度は、取得したデータの分析を主体に取り組んだ。計測記録データから、マサバは水深0~180メートルの間を往復する日周鉛直回遊を繰り返し行っていることが分かった。0~130メートルの利用頻度はおおよそ均一であり、マサバは1日のうちに広い範囲を鉛直的に移動していることが示された。日周鉛直回遊は、その多くが昼間に深く、夜に浅くなるといった行動パターンであり、多くの魚類で報告されている行動パターンと類似していた。しかし、この行動パターンが一時的に逆転する現象も観察された。日周鉛直回遊パターンの逆転現象は、プランクトン食性のウバザメ等で報告があるが、その生態的意義がマサバにもあてはまるのか検証するには、さらなる分析とデータの取得が必要である。さらに、マサバは日周鉛直回遊する水深範囲を水温の鉛直構造に応じて変化させていると考えられた。すなわち、利用した水深範囲が広いにも関わらず、経験水温データの8割以上が16~20℃という狭い範囲におさまっていたことがデータ分析の結果明らかになった。これらの成果の一部は学会やシンポジウムで報告した。また、当該海域で操業する大中型まき網漁業のデータ分析を行い、マサバの回遊パターンに関する情報を抽出した。その結果をシンポジウムにて報告した。
|