研究課題/領域番号 |
15K18738
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研究機関 | 国立研究開発法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
入路 光雄 国立研究開発法人水産総合研究センター, 中央水産研究所, 研究員 (50732426)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 母性効果 / 年齢 / 小型浮魚 / 資源 / 母性mRNA / ミトコンドリアDNA |
研究実績の概要 |
雌親魚の年齢によって発現の異なる遺伝因子(親魚年齢マーカー)の発見を目指す本研究において、年齢の異なる雌マサバの排卵卵を得る必要がある。そこで本年度はまず、マサバの排卵誘導実験を実施した。産卵期に、人工孵化から養成されていて年齢が明らかなマサバ親魚を陸上水槽に搬送し、バイオプシーにより雌雄および成熟度合を判定した。卵黄形成を完了した雌個体にヒト胎盤性生殖腺刺激ホルモン(HCG)を投与して、排卵誘導した。HCG投与の32~35時間後、排卵の確認できた個体を取り上げて排卵卵を回収した。卵の一部はRNA解析用に凍結保存し、一部はDNA解析用にエタノール固定した。本実験により、5~6歳、3歳、2歳のマサバそれぞれ2尾、4尾、3尾より排卵卵が得られた。また、「高齢魚ほど良質な卵を産出する」という母性効果を検証するため、得られた排卵卵の一部は人工授精に供した。受精卵は一定期間海水中でインキュベートした後、受精率および孵化率を計測した。結果、高齢群より得られた卵の方が、若齢群の卵に比べて受精率および孵化率が高いことが確認された。 次に、次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行うため、排卵卵よりtotal RNAを抽出して、mRNAを精製した。5~6歳のマサバ2尾、2歳のマサバ2尾の排卵卵各30粒より、それぞれ7~16 ngのmRNAを得た。cDNAライブラリを作製し、Ion Protonシステムを用いてシーケンスした。 さらに、排卵卵中のmtDNAコピー数を比較するため、定量法の検討を進めている。得られた排卵卵よりDNAを抽出した。ND1領域など、定量に適する候補領域をシーケンスした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな成果は、年齢の異なる雌マサバ親魚から排卵卵を得たことである。海産魚は一般的に、自発的に卵を得ることは難しく、さらに資源対象種である浮魚類の飼育実績は乏しい。本研究では、飼育実験系が小型浮魚類の中でも比較的確立されているマサバの利点を活かすことで、人工的な産卵誘導法を応用して高齢・中齢・若齢のマサバから計画的に排卵卵を得ることができた。さらに、これら排卵卵を用いた遺伝子発現解析においても、mRNA量の少ないサンプルから次世代シーケンサー解析を実施してシーケンスリードを得るなど、解析が順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、次世代シーケンス解析により得られた塩基配列の解析を進める。de novo アセンブリによるマッピングを行い、相対発現量から高齢魚の排卵卵に特徴的に認められるコンティグを絞り込む。得られた親魚年齢マーカーの候補遺伝子については、定量法を確立する。また、mtDNAコピー数定量のため、核DNAにおけるリファレンス遺伝子を探索する。さらに、本研究で得られる親魚年齢マーカーが、異なる環境で飼育されたマサバ群(あるいは天然群)でも有効であるかどうか検討するため、新たなマサバ群の入手について情報を収集し、検討しているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
マサバ飼育実験に伴う九州大学への経費として旅費を計上したが、本年度は申請者の所属する研究機関にマサバを搬入して飼育実験を実施したため、必要としなかった。また、遺伝子解析に用いた試薬の一部は所属研究機関に揃っていたものを利用したため、購入を必要としなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
1年目に次世代シーケンス解析で得られたRNA-seqデータを解析する。高齢魚と若齢魚を比較し、遺伝子発現量に違いのある親魚年齢マーカーの候補遺伝子についてリアルタイムPCRなどの定量解析を行う。さらに、マサバ卵におけるミトコンドリアDNA定量法の確立を進める。これら遺伝子解析用の試薬を中心とする薬品および消耗品のため、消耗費として使用する。また、国内学会や国際学会での成果発表のため、旅費として使用する。
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