研究課題/領域番号 |
15K18740
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石橋 洋平 九州大学, 農学研究院, 助教 (90572868)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラビリンチュラ類 / 油滴 / 中性脂質 / 高度不飽和脂肪酸 / リパーゼ |
研究実績の概要 |
バイオ燃料や機能性脂質の生産源として注目される海洋性油糧微生物であるラビリンチュラ類は、卓越した脂質蓄積能力を有することが大きな特徴である。その主要因は、脂質の貯蔵庫である油滴を大量に形成するラビリンチュラ類の特殊性にある。本研究では、ラビリンチュラ類における油滴形成制御機構を解明することを目的とする。密度勾配遠心法により油滴を単離し、質量分析計を用いてその脂質組成を解析した結果、中性脂質トリアシルグリセロール以外に、高度不飽和脂肪酸が結合したステロールエステル(SE)が存在することを見出した。ラビリンチュラ類のドラフトゲノムデータベースを用いて、SE合成酵素遺伝子を探索した結果、phospholipid sterol O-acyltransferase (PSAT)を見出した。この遺伝子を出芽酵母に発現させ、その活性を測定した結果、ラビリンチュラ類のPSATは高度不飽和脂肪酸DHAを有するリン脂質を基質として、主にコレステロールにDHAを転移させる性質をもつことが示された。この遺伝子を過剰発現させた変異株ではDHA含有SEの増加が認められ、逆に欠損株ではそのようなSEが減少することが示された。油滴を構成する脂質であるSEの合成酵素遺伝子を新たに同定することが出来た事は本年度における大きな進展であった。前年度に見いだされた新規中性脂質リパーゼの性質を評価した結果、この酵素は培地中に放出され、培地中の中性脂質を分解し、脂肪酸に変換する機能を有することを見出した。このリパーゼによって生成された脂肪酸は速やかに細胞中に取り込まれ、栄養源や細胞膜構成脂質として利用されることが分かった。このリパーゼは当初予測していたような油滴中の中性脂質の分解には関与していないが、1次構造は新規性が高く、活性も強い為、酵素学的・油脂化学的に興味深い酵素であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラビリンチュラ類から見いだされたLDRP1の油滴制御機構の解明のため、その相互作用タンパクを同定することを試みている。抗LDRP1抗体を用いた免疫沈降は良好な結果を得られなかったため、本年度は別の手法を模索した。BioID法は近年開発されたタンパク間相互作用解析法であり、目的タンパクに適度な長さのリンカー配列を介してタンパクビオチン化酵素を付与することで、目的タンパク近傍にある相互作用タンパクをビオチン化するというものである。これにより得られたビオチン化タンパクを回収することで、生体内における相互作用タンパクを解析することが可能となる。ラビリンチュラ類にBioIDを発現させ、ビオチン化タンパクの検出を試みたが、現段階ではBioIDが機能している結果は得られていない。LDRP1の相互作用タンパクの同定は難航しているが、一方で脂質代謝に関与する新しい遺伝子として、DHAがエステル結合したステロールエステル(SE)の合成酵素であるPSAT、比較ゲノム解析により見いだされたラビリンチュラ類に特有の新規中性脂質リパーゼを同定したことは本年度の大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
LDRP1に相互作用するタンパク群の同定は、引き続きBioID法の条件検討などを行うことで成し遂げたいと考えている。比較ゲノム解析の結果、ラビリンチュラ類に特有の新規中性脂質リパーゼを同定することが出来た。比較ゲノム解析からは、他にも複数のラビリンチュラ類に特有の遺伝子を見出している。これらの遺伝子の中には油滴形成に関与する新規因子がコードされている可能性がある。見いだされた遺伝子の欠損変異株を作製し、脂質組成や油滴の数、大きさに影響をおよぼすような表現型を示すものを探索する。油滴形成への関与が示唆されているスフィンゴリン脂質CPEに関しては、エリンギより見いだされたCPEプローブを用いて、その局在を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
残高が3570円と少額であり、必要物品を購入するには不足していた為。この範囲で安価な消耗品を購入するという選択肢もあったが、それよりも次年度に本当に必要な物品の購入に利用したほうがより良い使い道であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
ラビリンチュラ類の形質転換時に行うPCRのプライマー購入などに利用する。
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