これまでの研究により、発生初期の魚類は母親由来の卵黄を活発に代謝し、自らが利用できる形に変化させることが明らかとなりつつある。この研究の過程で、代謝関連酵素をコードする遺伝子が、環境変化に応答し発現を変動させることを発見した。本研究では、「魚類の発生初期に行われる卵黄代謝は、内外の環境変化に応じて適切に調節されている」という仮説を検証するため、ゼブラフィッシュ胚において代謝調節に関与しうる転写調節因子の探索を行っている。 前年度までにゼブラフィッシュ胚で12種の転写調節因子が発現していることが明らかとなった。本年度では、これらの遺伝子についてin situハイブリダイゼーション法によりその発現部位の特定を試みた。その結果、8種類の遺伝子が、それぞれ異なるタイミングでyolk syncytial layer(YSL)に発現することが明らかとなった。さらに、それらの遺伝子に対し、環境変化に対する発現変動を検討した。その結果、低pHまたは低酸素環境で遺伝子発現が変動するものが複数存在した。 これらの遺伝子のホモログは、脊椎動物の肝臓で糖代謝などの代謝機構を調節することが知られており、ゼブラフィッシュ胚でも同様の機能を持っていることが推察される。特にYSLに発現した遺伝子は、先行研究でYSLに発現することが明らかとなった代謝酵素遺伝子群をターゲットとしている可能性が考えられる。現在、低酸素化で発現が上昇する遺伝子に着目し、遺伝子ノックダウンにより下流に位置する遺伝子の特定と機能の推定を試みている。
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