研究課題
珪藻は10 万種以上が存在する多様なグループだが,その性成熟には普遍的なメカニズムが存在していると考えられている.本研究では珪藻性成熟を司る遺伝的因子を突き止め,また遺伝子改変によって性成熟のコントロールを試みる.本研究の材料である無縦溝珪藻Pseudostaurosira trainoriiの有性生殖は、1)雌の栄養細胞が放出するフェロモン1を感知した雄の栄養細胞が生殖細胞に分化、2) 雄の生殖細胞が放出するフェロモン2を感知した雌の栄養細胞が生殖細胞に分化、3) 雌の生殖細胞が放出するフェロモン3に向かって雄の生殖細胞が遊泳し接合する、という3段階のステップから成る。H27年度は、上記ステップ1と同様の現象を、雄の栄養細胞培養株中に共存している細菌へのストレス供与によって誘導可能であることを明らかにした。細菌へのストレスとしてアミノグリコシド系抗生物質の投与が有効であるが、抗生物質の使用は珪藻細胞自体への影響も懸念されるため、これにより得られた結果の解釈が容易でないことが難点であった。このことから各種ストレス源を用い珪藻生殖誘導の可否を試験した結果、従属栄養性プロティストが産生する消化酵素が、珪藻への影響を最小限に留めた状態で細菌にストレスを与えることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
細菌と珪藻性成熟との関連については当初想定していなかったため、この結果を受け新たな実験を計画・遂行した。そのため、予定していた課題については多少の遅れがみられるものの、全体を通してみると順調に進展しているといえる。H27年度分の計画研究に関しては、各生活史段階の細胞を調整し、それらの分裂サイクル同調および大量培養は順調に進展したものの、RNA抽出に際し若干の遅れが見られた。これは供試株の多糖含有量が高いことが原因であることが判明し、これに対応した手法を用いることで対処できたが、このプロセスでも若干の遅れが生じた。
各種生活史段階の細胞から得られたトランスクリプトームの比較解析を重点的に行う。さらに珪藻有性化と共存細菌のストレスとの関連について、この系でもトランスクリプトームを得ることにより、珪藻有性化の遺伝的因子の解明を目指す。
H27年度中に予定していたRNA-seqデータ納入が遅れ、支払いが今年度に繰り越されたため。
RNA-seqデータ納入の際に計画通り支払いを行う。
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