今日の生態系において大いに繁殖している珪藻の性に関する理解は、性の進化といった生物学的疑問を解くうえでの大きなヒントとなるだけでなく、珪藻が養殖稚仔魚や貝類の餌料やサプリメントの原料として使用されている点を鑑みると、養殖業への貢献といった産業的なメリットも見込まれる。本研究では有性生殖の誘導が可能な珪藻Pseudostaurosir trainoriiの雌雄株を材料として用い、これらの株間における有性化メカニズムの解明や性決定に関わる遺伝的因子を明らかにすることを目的として行った。 次世代シーケンサーを用いた配列解読により、これまでに両株の葉緑体およびミトコンドリアゲノム配列が完全長で得られている。また核ゲノム配列についても、得られたスキャフォルドをもとに雌雄間の比較ゲノム解析を行い、雌雄差を見出すことができた。さらにRNA-Seq解析により雌雄株の栄養世代、および各性成熟段階における網羅的遺伝子発現パターンが得られた。これらをもとに性決定や性成熟を司る遺伝的因子の特定を目標とし、特に雌雄差や生殖に関係する領域に着目して遺伝子予測やその機能推定を進めている。また本種珪藻の生殖誘発と、培養株内に共存しているバクテリアとの関連が明らかになった。共存バクテリアに各種ストレスを与えることで珪藻培養株の性成熟を誘発することが可能となり、これにより交配実験を通じたアプローチとは全く異なる視点で珪藻生殖メカニズムの解明を目指すことができる。
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