研究課題/領域番号 |
15K18746
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
林 薫平 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (30739355)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 福島県沿岸漁業 / 原発事故 / 復興 / 放射能汚染 / レギュラトリーサイエンス |
研究実績の概要 |
本年度は、北日本漁業経済学会の『北日本漁業』45号での特集「原子力災害下の試験操業の取り組みと漁村の展望」をとりまとめ刊行した(2017年8月)。その中で報告者は「試験操業における検査・流通問題と消費対策」と題する単著論文を収録し、福島県沿岸漁業の震災後の試験操業と試験流通の基本スキームが構築されてきた過程について、レギュラトリーサイエンスの理論フレームを念頭に置き、意思決定母体である「地域漁業復興協議会」の審議内容にもとづいて時系列に即して整理した。 とくに初期(2012-13)に関しては、放射能汚染の実態と社会的影響を見定めつつ漁獲・検査・流通・情報伝達の基本的なルールを確立していく経過を明らかにした。また、東電原発の汚染水対策への協力を求められつつも試験操業は魚種・海域・数量ともに拡大していく伸長期(2014-15)に関しては、難しい判断を迫られる中で協議会が果たした役割に焦点を当てて成果と課題を指摘した。2016年以降に関しては、以上の経過を踏まえ、試験操業から次のステップヘの展開を視野に入れていく段階と位置づけ、課題を挙げた。 本特集号は、福島県の沿岸漁業に関して、消費者市民や流通事業者や行政機関などを巻き込んだステークホルダー協議型の漁業復興をはかっていくうえで不可欠の基礎資料となる。本特集号の活用の一例として、年度末(2018年3月)に、日本水産学会東日本大震災災害復興支援検討委員会シンポジウムに提供資料として提出し報告者がコメントを行った。 また、本年度の夏(2017年8月)に、福島県漁連の下に漁業および流通の実務家や研究者で構成される「ふくしまの水産物販売戦略会議」が設置され、報告者が座長を務めている。この場で、如上の研究成果を生かし、試験操業から次のステップに展開する道筋を議論している。ただし当該年度には議論は途上で、最終年度に成果を持ち越すこととなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で設定したように、福島県の沿岸漁業の復興をめざしていく上で、報告者が協議の場の一員となり、漁業者だけでなく流通関係者や行政関係者からなる協議体を活用していくこと、その際に報告者自身はレギュラトリーサイエンスの理論フレームを用いて交通整理の役割を担っていくことを掲げた。その目的は、次の2点で果たされた。
第一、復興に向けての現状と課題を共通認識とし、今後の方向性について協議していくための足がかりとなる報告書が必要であるが、これに関しては、『北日本漁業』の特集号としてまとめることができた。 第二、試験操業の次のステップヘの展開を検討するために、上の研究成果を土台としつつ、新たな協議の場が必要であるが、2017年8月に販売戦略会議を立ち上げ、議論を開始することができた。
ただし、第一の点に関しては研究成果の活用がまだ一部にとどまっていて不十分であり、第二の成果に関しては、議論が進展しているもののまだ具体案のとりまとめに至っていないため、最終的な研究成果を具体的にまとめるために研究期間の延長をお願いした次第です。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2018年度は、本年度から持ち越した課題として、上記の研究成果(北日本漁業)等を活用して漁業関係者や流通関係者や消費者市民、行政関係者などのステークホルダーによるワークショップを開催し、これまでの6年間の試験操業の到達点と残された課題を共通認識とし、そのうえで今後の取り組み課題を具体的かつ多角的に析出し、その成果をもとに最終的なまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、本年度中に、成果物を活用してワークショップを開催し、今後の福島県の沿岸漁業の復興の次のステップに向けての具体的な取り組み課題に関する結論を得てから、最終まとめを実施する計画であったが、別に実施した「ふくしまの水産物販売戦略会議」の進捗が十分でないために見合わせ、次年度に開催を持ち越すこととした。 次年度は、繰り越し額を活用して、ワークショップを開催し、最終的なまとめを行う。
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