水田転換畑の主要作物であるダイズは梅雨は生育初期にあたり,この時期の土壌の過湿はその後の生育収量を低下させる.安定した収量や品質を担保するには,ダイズ栽培期間中の土壌水分状態の把握,管理が重要である.作物は,根の分布や水分消費特性を変化させることによって多様な土壌水分条件(多湿・干ばつ)に適応している.しかし特に多湿条件における作物群落下の土中水分移動予測モデルは確立していない.本研究では,ダイズの栽培試験を基に,転換畑のような多湿条件にあるダイズ畑の土中水分移動予測モデルを構築することを目的としている. 平成30年度は,時期ごとのダイズの根の分布と土壌水分分布の関連を調べるための栽培試験と,これまでに蓄積してきたデータを基に,ダイズ栽培中の土壌水分変動を予測するための数値シミュレーションモデルの検討を行った.ダイズの根の分布の特徴として,生育初期の土壌水分状態の影響を受け,生育初期に排水不良などによって多湿条件(ここでは地下水位10cm)にあると表層の根重割合が増加すること,栽培期間を通して排水良好にある場合(ここでは地下水位40cm)は,開花後から収穫時期までほとんど根重割合は変化しないことが確認された.また,表層付近は根重割合が高くても,収穫時期に近づくと灌漑(降雨)の度に土壌水分量が増加し,根の吸水速度が低下することが示唆された.また,前年度までに行った実験によって,排水良好の場合のダイズの水分消費速度は,播種から30日後ごろから増加し60日ごろにピークが見られたのに対し,生育初期に多湿条件にあった場合は水分消費速度が増加し始めるピークが遅いことが分かった.このような根重分布の土中鉛直分布や水分消費速度の時間変化を考慮することによって,ダイズ栽培期間中の土中水分移動予測の精度が向上した.
|