研究課題/領域番号 |
15K18757
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
坂井 勝 三重大学, 生物資源学研究科, 講師 (70608934)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蒸発散 / 植物根の吸水 / 土中水分移動 / 吸水強度分布 / 水ストレス応答関数 / 圃場試験 / ポット試験 |
研究実績の概要 |
本研究では植物根の吸水,窒素成分の吸収をポット試験と圃場調査から定量的に評価し,モデル化の上で,土壌・植物・大気連続系における水分・窒素循環を予測し,地下水硝酸汚染のアセスメントを行うことを目的としている.土壌中の窒素動態は土中水分移動に大きく影響を受け,その予測には植物根の吸水および大気への蒸散の評価が必要不可欠である.そこで平成27年度は,植物根の吸水とそれにともなう蒸発散を含む畑地の水分移動シミュレーションを行う上で必要なパラメータ類の推定を行った. 蒸発散をともなうシミュレーションを行う場合,地表面境界条件に与える蒸発速度と,リチャーズ式の吸込み項として与える蒸散速度に分けて考える必要がある.そこで気象条件から求めることができる蒸発散速度を蒸発速度と蒸散速度に分ける必要があり,植物の生長にともなうこの割合の変化を明らかにする必要がある.そこでダイズ栽培圃場で土中水分量・土中水圧力・地温,および気象データの測定を行った.地表面にマルチを施した圃場の土中水分量変化にもとづき水収支式から蒸散速度を推定し,気象条件から可能蒸発散速度を求め,ダイズの生長にともなう蒸散の割合の変化について明らかにした. 一方,植物の吸水をともなうシミュレーションを行う場合,植物根が吸水を行う深さを表す吸水強度分布と,土中水分量の減少による吸水の減少を表す水ストレス応答関数に二つのパラメータが必要である.そこで,ダイズのポット栽培実験において土中水分量・土中水圧力等の経時変化の測定,また定期的な根密度分布,気孔コンダクタンスの測定を行った.土が比較的湿潤な条件下の水分量変化に数値計算を適合することで,吸水強度分布の推定を行った.また,乾燥過程の水分量変化に数値計算を適合し,水ストレス応答関数の推定を行った.また,気孔コンダクタンスと土中水分量・土中水圧力の関係からも水ストレス応答関数の推定を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画では「ポット試験」と「不飽和水分移動特性測定」を挙げている.ポット試験については前述の「研究実績の概要」でも述べた通り実施しており,ダイズ生長過程の土中水分量・土中水圧力・蒸散速度・気孔コンダクタンスの測定を行った.その測定データをもとに,不飽和透水係数と水分特性曲線の不飽和水分移動特性の推定に加え,根の吸水のシミュレーションに必要な吸水強度分布と水ストレス応答関数の推定も行うことができた.今年度は並行してダイズ栽培圃場における土中水分量・土中水圧力の経時変化,気象データの測定,およびその解析を行うことができた.本来,「圃場調査」と「数値シミュレーション」については平成28年度の研究計画の内容であることから,当初計画よりも早めに進展していると言える.一方でアンモニア態窒素量や硝酸態窒素量の測定は達成しておらず,次年度の課題と言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,植物根の吸水・吸収を考慮した窒素動態を明らかにするため,実験によるデータの蓄積とそれにもとづいた数値シミュレーションによる予測という2つの手法を用いている。平成27年度の達成度から,土中水分移動数値シミュレーションに必要なパラメータ群を,「ポット栽培実験」と「圃場調査」から得ることができた. 今後の推進方策の一つは,平成27年度の実験から得られたデータについてより詳細な解析を行うことで,植物根の吸水特性として「受動吸水」と「能動吸収」について明らかにすることである.また,平成27年度と同様な実験を実施し,その過程でアンモニア態窒素量や硝酸態窒素量の測定を行う.そして得られたデータを解析することで,窒素移動のシミュレーションに必要なパラメータ群の評価を行う. また今後の推進方策の一つとして,数値シミュレーションについては,実験と独立して推進する.窒素移動のシミュレーションに必要なパラメータ群について,上述の実験とは別に文献値を用いることで,まずシミュレーションの枠組みを完成させることを第一目標に置く.数値計算を「実験」と独立することにより,目的の達成を早めることができると考えられる。その上で,実験データの解析に基づいたパラメータを適用することで,予測の精度を向上させることとする.
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