実験で計測された応力発光から、構造物の健全度を推定する問題は典型的な「逆問題」であるため、最終年度は逆解析手法の構築に取り組んだ。応力発光技術は、応力をダイレクトに計測できるという特長を有しているものの、得られるデータが空間的にスパースである。逆問題を精度良く解くためには、多量のデータを用いることが望ましいが、応力発光に基づく逆解析では多量のデータを取得することは難しい。 そこで、少ないデータからでも精度良く未知数を推定できる「スパースモデリング」に着目し、計測データの少ない状況においても適用可能な逆解析手法を構築した。スパースな解を推定する方法論としてLASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)二尺目した。スパースな解を厳密に推定する方法として、L0ノルムにもとづく方法があるが、高次元の問題を取り扱う際に、いわゆる「NP困難」な問題となりうる。本研究で対象とするような、構造物の健全度診断は大規模な次元の問題であり、L0ノルムを適用することは現実的に不可能である。本研究で着目したLASSOは、L0ノルムを近似的に解く方法であるが、解のいスパース性をうまく利用することで、精度の高い推定が可能となる。本研究では、ADMMと呼ばれるアルゴリズムを用いてLASSOを解くこととした。 上記の逆解析の理論的な項目について整理した後、LASSOに基づいた逆解析手法を構築した。ここでは、未知パラメータとアウトプットに線形関係が成り立つと仮定した線形逆問題を対象とした。実際にはほとんどの現象が非線形現象であるが、逆解析手法の性質を厳密に調べるためには線形問題が適しており、ここでは線形問題とした。その後、提案した手法を数値実験に適用し、その有効性を既存の方法と(リッジ回帰)と比較することで明らかにした。
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