モデル調査地(茨城県)の降水,河川水,地下水を対象に,水素・酸素安定同位体比および酸素安定同位体比異常値(17O-excess)の観測を継続して行った。また,広域的な同位体組成分布を把握するため,地域の降水の積算値となっている湧水,また蒸発の影響が見られる農業用ため池の採水を行った。前年度までに取得できていなかった東北北部,九州で観測を行い,国内のほぼ全域に相当する北海道から沖縄までの41道府県のデータを取得した。 各地域の湧水の同位体比には,高緯度ほど値が低い緯度効果が見られた。ため池の同位体比も同様であるが,蒸発による同位体比の濃縮が影響し相対的に高い値を示す。湧水の17O-excessは低緯度でやや低い値を示す傾向にあるが,ため池の17O-excessの空間分布の特徴は明瞭ではない。これは蒸発によって17O-excessが低下し,蒸発の程度がため池によって異なるためと考えられる。δ18Oと17O-excessは緩い負の相関関係を示しており,最も17O-excessの平均値が低いのはより蒸発の影響を受ける田面水であった。蒸発が同位体組成に影響する唯一の過程であるならd-excessと17O-excessは連動して変化するが,湧水,ため池等ではわずかに正の相関を示すものの,その関係は明瞭ではない。これは蒸発以外に異なる水の混合等の水文過程が影響していることを示していると考えられた。17O-excessの分布は,海洋上で異なる相対湿度条件下で生成された水蒸気によってもたらされる降水の季節性と陸面到達後の蒸発の影響を受けていると推測された。温度ではなく湿度に依存する変数である17O-excessの陸域での空間分布はわが国で初めての知見である。今後,17O-excessは,これまでの同位体比に加えて,地表水・地下水の起源推定において用いられる可能性があることが示された。
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