研究課題
本研究では殺菌処理により発生する損傷菌を考慮した衛生管理手法の提案を最終目的としており、平成28年度では損傷菌の検出手法について研究を行った。代表的な食中毒菌であるサルモネラ属菌を対象とし、標準寒天培地による損傷菌の検出における適正培養温度を検討した。健常菌ではコロニー形成が可能な温度域であれば、検出までの培養時間は変化するが、検出数に違いは発生しなかった。一方、高圧損傷菌では検出までの培養時間の培養温度による影響は同様であったが、中温(25 ℃)と高温(37 ℃)では10倍以上の差が示され、培養温度の低下と共に検出菌数が大きくなった。また、ピルビン酸を添加した標準寒天培地では、培養温度に関わらず、検出菌数が無添加のものと比べ、増加した。抗酸化作用を持つピルビン酸は酸化反応による不活性化を軽減するため、検出菌数が増加できたものと考えられる。したがって、培養温度の低下による検出菌数の増加についても、酸化反応の速度が温度の低下と共に遅くなったためだと考えられる。また、25 ℃程度の中温では損傷菌の検出数ができるが、前述したように検出までの培養時間が増加する短所がある。そこで、中温と高温での2段階培養による損傷菌の検出について検討を行った。その結果、短時間の中温培養を行った上で高温培養へ移行することで、検出までの培養時間を長期化させることなく、高温培養に比べ、損傷菌の検出数を増やせることを明らかにした。一方で、中温培養による検出数は2段階培養よりも依然多いため、検出能としては現状の2段階培養では不十分であると考えられる。そのため、今後、2段階培養の条件についてより詳細に検討を行っていく必要があるものと思われる。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度では、平成27年度に引き続き、研究協力者の所属先である農研機構食品研究部門(旧名:食品総合研究所)に出向し、実験を行った。このとき、研究計画書に記載した損傷回復時に高圧損傷菌より分泌される代謝物質による損傷菌の検出について検証を行ったが、検出数の増加は僅かなものであった。また、処理圧力を高め、損傷を大きくした場合では、逆に損傷菌の検出数が減った。一方、同時に行っていた低温培養による損傷菌の検出が良好な結果となったため、損傷菌の検出については低温培養による手法に切り替えた。また、平成29年度に行う予定の「他の殺菌処理で発生する損傷菌への損傷菌検出技術の適用」について、本年度より着手し、熱処理および次亜塩素酸ナトリウム処理による損傷菌調整条件を検討し、次年度の実験を円滑に進めることができるように備えた。
平成29年度については、平成28年度と同様に農研機構食品研究部門へ出向し、研究を遂行していく。研究内容については、平成29年度に遂行を予定する「他の殺菌処理で発生する損傷菌への損傷菌検出技術の適用」を主に行い、「損傷菌の検出を目的とした平板培地培養法の開発」、「低温における食品危害菌の損傷回復の検討」についても並行的に遂行していく。
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Journal of Bioscience and Bioengineering
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10.1016/j.jbiosc.2017.01.007
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: ‐ ページ: 1-6
10.1080/09168451.2017.1292835