本研究では殺菌処理により発生する損傷菌を考慮した衛生管理手法の提案を最終目的としており、平成29年度では熱損傷菌と高圧損傷菌の動態の違いについて研究を行った。 大腸菌を対象とし、熱処理および高圧処理により損傷菌をそれぞれ調製し、液体培地および平板培地での培養を行った。なお、液体培地にはTSB、平板培地には標準寒天培地を用いた。液体培地における培養では、高圧損傷菌は増殖可能温度以下(5 ℃以下)でも損傷回復が一部進行し、菌数が増加していくことが前年度までの報告と同様に確認された。また、増殖可能温度域では、損傷回復による菌数増加と共に誘導期の延長が示されるものの、健常菌と同様に増殖による菌数増加を示した。一方、熱損傷菌は培養温度に関わらず菌数が減少し、低温下(15 ℃以下)では最終的には完全に死滅することを確認した。25 ℃以上の培養では、一時的な菌数減少が示されるものの、一定時間経過後、健常菌と同様に増殖による菌数増加を示した。平板培地塗抹培養では、高圧損傷菌が培養温度の低下と共に検出数が増加するのに対し、熱損傷菌は培養温度の上昇と共に検出数が増加した。以上のように、同一の菌種であっても損傷が発生する機序により損傷菌の動態が大きく異なることを実験的に明らかにした。従来の食品の殺菌工程では熱処理が主流であるものの、殺菌工程に高圧処理を採用した高圧加工食品の販売が増えつつある現状を鑑みると、本研究成果は食品衛生管理の高度化を目指す上で欠かすことのできないデータであると思われる。
|