研究課題/領域番号 |
15K18763
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
日高 功太 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター 園芸研究領域, 主任研究員 (80547232)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クラウン冷却 / 転流 / 花芽分化 / 果実生育ステージ |
研究実績の概要 |
気候変動下(温暖化、CO2濃度上昇)のイチゴ生産においては、秋季の高温による花芽分化の遅延やCO2濃度上昇による光合成への影響が予想される。本研究では、クラウン部(成長点)の局所冷却による高温下での花芽安定誘導を検討するとともに、CO2濃度上昇による光合成促進を増収につなげるためのソース・シンク物質輸送プロセスの解明に基づく局所温度制御による果実への同化産物の転流促進を検討する。 平成28年度では、「課題Ⅰ:局所温度制御による高温下での花芽の安定誘導の検討」、「課題Ⅱ:ソース・シンク間での炭素・水の動態解析に基づく転流機作の解明」および「課題Ⅲ:局所温度制御によるシンクへの光合成産物の転流促進の検討」の研究を実施した。 課題Ⅰでは、気温を昼温30/夜温27℃の制御で再現した温暖化環境下において、27年度に明らかにした有効温度域でのクラウン冷却(10、15、20℃)を行い、処理の積算が花芽分化等に及ぼす影響を調査した。10、15、20℃のクラウン冷却によって高温環境下での安定的な花芽分化がみられたが、10、15℃区では、低温の積算に伴って生育が遅延し、20℃区に比べて開花が遅れ減収した。以上、クラウン冷却においては、20℃程度の温度域での積算低温処理が望ましいと示唆された。 課題Ⅱでは、ソース・シンク間での炭素動態を解明するために、同化産物の転流を非破壊・可視化できるPETISを用いて、イチゴ果実への同化産物の転流を解析した。果実への同化産物の転流量を緑熟、白熟、着色期の果実生育ステージ間で比較した結果、白熟期において転流活性が最も高くなることが明らかになった。 課題Ⅲでは、葉や果実を含めた植物体への温度処理(5、10、15、20℃)が果実への同化産物転流に及ぼす影響を13C法で調べた結果、処理温度が高くなるほど果実への同化産物の転流が促進されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画のとおり、課題Ⅰでは、昼温30/夜温27℃の温暖化環境下において、初年度の試験で得られた有効温度域におけるクラウン冷却処理を長期間実施し、積算の低温処理が花芽分化や花芽分化後の開花、収量に及ぼす影響を明らかにした。課題Ⅱでは、初年度に引き続き果実生育ステージが果実への同化産物転流に及ぼす影響について、植物を非破壊かつ連続的にリアルタイムイメージングが可能な計測手法(PETIS)を用いて明らかにした。課題Ⅲでは、植物体への温度処理が果実への同化産物転流に及ぼす影響を調べた結果、処理温度が高くなるほど果実への同化産物の転流が促進されることを明らかにした。 以上のことから、平成28年度に実施すべき研究内容を遂行しており、最終年度の研究につながるデータが得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画のとおり、27、28年度の結果に基づいて最終年度の研究を遂行する。具体的には、課題Ⅰでは、28年度までの結果で得られた有効温度域(20℃)による積算有効低温を同定し、これに沿ったクラウン冷却処理が花芽の安定誘導および開花、収量に及ぼす影響について調査する。課題Ⅲでは、課題Ⅱで得られた果実への同化産物転流活性の高い白熟期において、葉や果実等の局所加温処理を実施し、転流や果実品質等に及ぼす影響を調査する。これらの試験で得られた成果については、論文化や研修会等によって早めのアウトリーチ化に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の「クラウン冷却処理による安定花芽誘導」や「果実への同化産物の転流調査」の課題において、28年度中の論文化のための経費や研究加速化のための分析旅費を使途として20万円の前倒し支払い請求を行ったが、これらの実支出額が当初の予定よりも安価で済んだために次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
発生した次年度使用額については、平成29年度の論文化経費や旅費として使用する。
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