研究課題
本研究課題では卵丘細胞における上皮成長因子(EGFR)シグナル伝達系の活性化増強メカニズムを明らかにすることでウシ卵子の品質向上を目指す.初年度ではEGFRシグナル伝達系の活性化増強におけるcAMP-PKA系の関与について解析した.cAMPモジュレーターであるforskolin, dbcAMPあるいはIBMXで卵丘細胞-卵子複合体(COCs)を2時間処理(pre-IVM)した.その後,無添加,FSH,あるいはAREG添加成熟培地で22時間の体外成熟培養をを行った.体外受精/体外発生培養7日目の胚盤胞形成率を算出した.結果,dbcAMP+IBMXで2時間pre-IVMを施した後,FSH添加成熟培地で成熟培養することで,最も高い胚盤胞形成率が得られた.pre-IVM区においてFSHやAREGといったリガンドを含まない場合,胚盤胞形成率が低かったことから,dbcAMP+IBMXのpre-IVMを実施することでFSHあるいはAREG依存的な卵成熟が誘導されることが示唆された.また,卵丘細胞のmRNA発現解析の結果,dbcAMP+IBMXでpre-IVMを実施することで,EGFRのmRNA発現が増加すること,さらにFSH刺激後のEGF様ペプチド関連遺伝子AREGおよびEREG,細胞外マトリックス(卵丘膨化)関連遺伝子HAS2, TNFAIP6およびPTGS2の発現がpre-IVM未処理区に比べ有意に増加した.以上,cAMPモジュレーターを用いたpre-IVMによるcAMP-PKA系のパルス刺激は卵丘細胞のEGFRシグナリンの活性化増強に関与し,卵子の発生能を向上することが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
初年度はEGFRシグナル伝達系の活性化増強におけるcAMP-PKA系の関与を明らかにすることを目的としていたが,研究実績の概要に記載した通りcAMP-PKA系の関与が明らかとなり当初の目的は十分達成できたと考えられる.
本年度ではEGFRシグナル伝達系の活性化増強における卵子分泌因子(OSFs)の関与について解析する.すでに,前倒しで初年度の途中から本年度の研究を開始している.研究の遂行に必須な合成OSFsの作製も完了し,研究を進めている.したがって,本年度は当初の計画以上に研究が進展することが予想される.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (1件)
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