研究課題
本研究はザンビアにおいてコウモリおよびマダニ等の動物が保有するウイルスを分離・検出し、それらウイルスの病原体としての潜在的リスク評価を目的とする。研究計画および過去の研究結果に基づき本年度は以下の研究を実施した。ザンビア国内で535検体のマダニを採取し、ダニ媒介性フレボウイルス (TBPV) のスクリーニングを実施した。その結果、86検体 (16%) からTBPV遺伝子が検出された。シーケンス解析および分子系統解析の結果、検出されたウイルスの多くが新規TBPVであり、ザンビアにおけるTBPVの分布および遺伝的多様性に関する新たな知見が得られた。またザンビア各地のイボマダニからクリミヤ・コンゴ出血熱ウイルス (CCHFV) の遺伝子が検出された。分子系統解析により、ザンビアのウイルスは過去にアフリカから報告されたウイルスと近縁であることがわかった。ザンビアにおいて過去にクリミヤ・コンゴ出血熱 (CCHF) の報告はなく、同感染症の先回り対策に有益な疫学情報を得ることができた。平成26年度にザンビアのケンショウコウモリからヒトのムンプスウイルスに近縁なバットムンプスウイルス (BMV) が分離された。過去に捕獲した同種のコウモリ81頭を対象にBMVのスクリーニングを実施した結果、18頭 (約21%) の個体がBMV遺伝子を保有することがわかった。BMVは特に脾臓から高率で検出されたが、肺、腎臓、唾液腺などの組織からも検出された。様々な実験動物を用いてBMVの感染実験を実施した結果、ハムスターおよびラットがBMVに感受性を有することがわかった。特にハムスターの感受性が高く、唾液腺からもウイルス遺伝子が検出された。ムンプスウイルスの齧歯類のモデル動物は確立されておらず、BMVがムンプスウイルスの病態を理解する上での有力なツールとなりうる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は初年度に引き続きマダニおよびコウモリを対象とした潜在的病原ウイルスに関する研究を実施した。より具体的にはTBPVおよびCCHFVの検出と分子系統解析、また、BMVの分離、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム塩基配列の決定、分子系統解析および生物学的性状解析を実施し、新たな疫学的知見を得ることができた。残念ながら、申請書に記載した「フィロウイルス遺伝子の検出」は叶っていないものの、既にマールブルグウイルスに対する抗体保有率の高いコウモリ群が特定されており、過去に捕獲した全ての同コウモリ検体を対象とした網羅的なスクリーニングを実施中である。来年度にはザンビアのコウモリからフィロウイルス遺伝子が検出されることを期待したい。上記以外にも、リフトバレー熱、アフリカ豚コレラを始めとする公衆衛生や家畜衛生を脅かすウイルス性感染症に関する血清学的もしくは分子学的疫学データが得られている。また、次世代シーケンサーを利用したヒトおよび動物検体の解析に向けた条件検討なども進行している。これらの成果は当初の計画に含まれていない副次的な成果ではあるが、アフリカにおける感染症対策に大いに寄与する可能性がある。以上の状況を総合し、本研究は「当初の計画以上に進展している。」と評価するのが妥当であると判断した。
マダニからはTBPVおよびCCHFVの分離を目指す。具体的には、マダニ乳剤を培養細胞あるいは乳飲みマウスの脳内に接種し、それぞれ細胞変成効果およびマウスの症状を観察する。ウイルスが分離できなかった場合も、サンガー法と次世代シークエンス技術を併用してウイルス遺伝子配列を極力広範囲に決定する。得られた遺伝子情報に基づいて分子系統解析を実施し、ウイルスの進化学的または疫学的知見を得る。また、ヒト血清検体を用いてCCHFVに対する特異抗体の検出を試み、ザンビアにおけるCCHFによるリスクを解析する。これまでの研究結果から、マールブルグウイルスに対する抗体保有率が高いコウモリ群が住み着いた洞窟の存在が明らかになっている。過去に同洞窟から捕獲した全てのコウモリの検体から核酸を抽出し、マールブルグウイルスを含むフィロウイルス遺伝子の検出を試みる。また、次年度もコウモリを捕獲し、フィロウイルス感染症に対するモニタリングを継続する。ELISAを用いたヒトの血清学的スクリーニングも実施する予定である。BMVのハムスターにおける感染動態を詳細に理解するため、ウイルス接種後1週ごとにハムスターから各種臓器を回収し、継時的にウイルス増殖を解析する。また、組織学的な検査も実施し、BMVのハムスターに対する病原性について検討する。以上の感染実験にはヒトのムンプスウイルスも併用し、感染動態を比較解析することで同ウイルスの宿主域、病原性を規定する因子に関する知見を得る。また、コウモリを対象とした血清学的スクリーニングを実施し、コウモリ群内におけるBMVの挙動に関する情報を得る予定である。
現在、平行して実施している他プロジェクトの業務によりザンビアを拠点に研究活動を実施している。本研究のために採取した検体は並行業務と共有している。そのため、必要経費として計上していた旅費やザンビア国内での採材にかかる経費を支出する必要がなくなった。また、本年度は次世代シークエンサーの使用料に多くの経費を割く予定であったが、他の重要度の高い研究を優先させたため、当初計画していたよりも次世代シークエンサーの使用頻度が少なかった。
次年度は次世代シークエンサーを用いたVirome解析の頻度が増える予定である。また、多数の実験動物を購入する予定である。研究から良好な結果が得られており、来年度は学会参加および論文投稿などの発表活動にも予算を使用する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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