研究実績の概要 |
本研究の主目的は、日本国内の鳥類および蚊から検出されるトリマラリア原虫(Plasmodium spp.)のうち、国内で流行している原虫系統を明らかにすることである。 2019年は、前年度に共通機器の故障により解析ができなかった蚊検体についてトリマラリア原虫の遺伝子解析を行った。 2015-2018年にかけて、鳥取、岡山、新潟、東京の調査地において、蚊および鳥類血液検体を採取した。蚊については、11種28,155個体を解剖した結果、4つの遺伝子型のトリマラリア原虫オーシストおよびスポロゾイトが確認された。これら4つの遺伝子型のうち、3つの遺伝子型は国内の鳥類からも検出されており、蚊の間で在来のトリマラリア原虫であることが明らかになった。残る1つの遺伝子型は、海岸線の葭原などに局所的に生息するイナトミシオカから検出された遺伝子型であるが、宿主鳥類は不明である。イナトミシオカの生息地および発生時期は、留鳥だけでなく夏鳥の飛来時期と重なっている。現在、この遺伝子型の国内流行状況について調べるため、鳥類血液検体の解析を進めている。 鳥類血液検体については、14種227検体についてトリマラリア原虫の検出を行った結果、9つの遺伝子型が検出された。このうち4つの遺伝子型は渡り鳥からのみ検出されており、日本産蚊からは一時的に遺伝子が検出されているが、スポロゾイト発育は確認されていない。したがって、これら4つの遺伝子型については、海外で感染した鳥類の移動に伴い、一時的に日本産蚊に取り込まれた可能性が考えられる。 外来性のトリマラリア原虫が国内で流行するかどうかは、蚊がベクターとして機能するか否かに大きく左右される。したがって、日本産蚊がベクターとなり、国内で伝播されている原虫系統を特定した本研究成果は、在来系統と外来系統を見分ける基礎的データを提供し、外来性病原体の侵入および流行の拡大防止に役立つ。
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