研究課題/領域番号 |
15K18782
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
渡邉 健太 山口大学, 共同獣医学部, 助教 (20582208)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 共生 / レジオネラ / ゾウリムシ / 原生生物 / 細胞内寄生菌 |
研究実績の概要 |
我々の身の回りの環境中には、ヒトや動物に感染し病気を起こす病原性細菌を含む多くの細菌が存在している。その中には、原生生物との共生関係を成立させ、その細胞内で生存することが可能なものも存在する。本研究では、この自然環境中における病原性細菌の「共生」という現象に着目し、ここから新規病原因子の同定や、ヒトや動物への感染リスクを評価し、これを制御する手法を確立させることを目的としている。 宿主となる原生生物としてはゾウリムシを採用している。山口大学のナショナルバイオリソースプロジェクトから取得し、感染実験に利用している。レジオネラについては、山口県内の環境中から複数の野外分離株を取得することに成功した。これらの材料を用い、原生生物(ゾウリムシ)・病原性細菌(レジオネラ)の共生モデルの確立に成功した。また、この共生モデル系を用いた分子レベルでの解析により、レジオネラの特定の遺伝子が、ゾウリムシとの共生の成立・不成立のスイッチングを行っていることが明らかとなった。すなわち、自然環境中においてゾウリムシは、能動的に宿主となる原生生物の選択を行う機構を持つことが示唆された。現在は、この機構が持つ生物学的意義や、共生によって原生生物と病原細菌の双方が得られるメリット等を明らかにすることを目標に研究を進めている。 一方で、ゾウリムシの核内にはホロスポラ属菌が共生しており、このホロスポラのゲノム解析を基盤としたレジオネラの共生因子の同定も行っている。これら二つの共生細菌の間で共有されている共生機序を明らかにすると同時に、共生因子の水平伝搬や遺伝学的進化への関与についても解析を進めている。現在は、候補となった共生因子の欠損株を複数作製し、この性状解析とゾウリムシ内での共生の可否について詳細な解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゾウリムシの維持、培養といった基本操作、またレジオネラの感染実験等は実験手技として完全に習得しており、レジオネラでの遺伝子欠損株および相補株の作製といった遺伝子操作技術についても確立されている。これにより、「ゾウリムシとレジオネラの共生モデル」を用いた遺伝学的および分子生物学的解析が進んでおり、これまでに何ら問題はない。次年度の研究での発展が十分に期待できる。さらに、我々が自然環境中から分離したレジオネラ株が保持していたプラスミドを分離・精製し、この性状解析を行った。この成果を基にした新規レジオネラ―大腸菌シャトルベクターの開発にも成功しており、このプラスミドベクターを今後の研究における有用なツールとして使用していく計画である。 ホロスポラのゲノム情報を基盤とした解析においては、ゾウリムシ内での共生に必須な5つの候補遺伝子を同定し、レジオネラにおける各遺伝子の欠損株作製と性状解析が行われている。この研究計画も概ね当初の予定通りに進んでおり、現在、論文にまとめ投稿予定である。また、発展的な解析として、この手法を他の環境細菌における共生因子の探索と同定にも応用できないかと考え、いくつかの候補となる病原細菌との比較ゲノム解析を行う計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度、28年度中に作製したレジオネラの各遺伝子欠損株の性状解析を元に、普遍的なゾウリムシ共生メカニズムの解明を目指す。この解析により得られた結果を基盤とし、自然環境中における病原細菌と原生生物との共生をコントロールすることに主眼をおいた新しい発想の感染症制御方法確立を目指す。具体的には、既に同定・解析されているホロスポラに加え、その他の共生微生物を新たに同定し、こうした共生体の存在により病原細菌の共生が阻害され破綻する機序を応用する。共生体自体の利用を基本とするが、共生を阻害する因子や物質の分離・同定までも想定している。これにより、最終目標として汎用性と効果の高い新しい細菌感染防御の確立が期待できる。 合わせて、これまでの実験・解析を進める中で、レジオネラの培養上清を添加して培養したゾウリムシの食作用が顕著に低下することを偶然に発見し、レジオネラの代謝産物中にゾウリムシの食作用を特異的に阻害する物質が含まれている可能性が示唆された。この現象もまた共生の成立に重要であると考え、この因子の同定を行った後、同じく感染防御への応用を考える。
|