豚流行性下痢(PED)は、PEDウイルス感染による豚の下痢を主徴とする急性感染症で、哺乳豚での死亡率は時に100%に達する。2013年10月に我が国で7年ぶりとなる発生が沖縄県で確認され、その後わずか8ヵ月で38道県に感染が拡大し、過去最悪の37万頭以上が死亡するなど被害が顕在化している。PEDの防疫措置には消毒などのウイルス侵入対策の徹底や、PED発生農場から非発生農場へのウイルスの混入を防ぐために両農場間における動物の移動を自粛する等の対策が実施されている。しかしながら、いまだにPEDウイルスが感染拡大する要因は明らかになっておらず、発生農場数は増加の一途を辿っている。我が国や米国で認定されているPED発生農場とは、豚が臨床症状を示し、PEDの診断検査で陽性となった農場のことを示す。すなわち、症状を確認してから検査を依頼する現行の制度ではウイルスに感染した状態でも豚が症状を示さない農場、あるいは生産者が症状に気づかない農場は検査の対象にならず非発生農場として扱われる。このことは動物の移動によって不顕性感染農場から非感染農場にウイルスが侵入する可能性を示唆している。これに対し、症状の有無に関わらず全ての調査対象農場から豚をランダムに抽出して検査する方法では、症状にとらわれず感染状態と非感染状態を識別することができる。感染農場と非感染農場を正確に把握できれば、動物の移動制限の徹底が可能になるだけでなく、両者を比較し相違点を明らかにすることでウイルスの侵入・感染拡大の原因(リスク因子)を明らかにすることができる。そこで本研究は、能動的サーベイランスを用いて感染農場と非感染農場を識別し、両者の相違点を多変量解析等の統計的手法で明らかにすることでPEDの感染拡大要因を解明することを目的とした。本研究の結果, PEDの感染拡大に関するリスク因子を同定することに成功した。
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