研究実績の概要 |
中枢性熱源物質であるプロスタグランジンE2の合成酵素mPGES-1の遺伝子を欠損したマウス(KO)を実験に用いた。マウスの腹腔内に体温測定用のテレメーターを埋込み、実験的な感染刺激として汎用されているリポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS、120 μg/kg, ip)を投与してその後の体温変化を観察した。野生型マウス(WT)では雌雄ともに、顕著な発熱を呈した。一方、KOでは雌のうち約半数でLPS投与後約5時間を底とする強度の体温低下が観察された。残りの雌および雄では発熱も体温低下も見られなかったことから、雌特有の周期的な内分泌環境変化である性周期の関与を疑い、膣スメア像による性周期判別を毎日行った。その結果、KOでは性周期回帰に異常はないこと、LPS投与後に体温低下を示すのは発情前期および発情期のもののみであることが明らかとなった。そこで卵巣摘出後の個体に同様の処置を行ったところ、個体の割合は減ったものの、6匹中1匹では依然としてLPS投与後の体温低下を示した。さらにこれらの卵巣摘出雌に高濃度のエストロゲンを処置した後にLPSを投与すると、WTでもKOと同様の体温低下を示す個体が確認された。以上の結果から、LPSの投与時にはPGE2の体温上昇刺激と同時に中枢性に働く体温低下作用をもつ内因性因子が存在し、この因子の作用する機構の一部が少なくともエストロゲンに感受性をもつことが明らかとなった。 この一方で組織学的な解析として、体温低下の底が見られるLPS投与5時間後の脳を採取し、低下が起きない雌(発情休止期/終期の雌)や発熱が起きているWT雌の脳との神経興奮状態をcFosの免疫染色によって比較中である。
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