臓器不全症の治療には臓器移植が有効であるが、ドナー不足や生体適合性の問題などを解決できていないのが現状である。そこで、移植可能な臓器を患者自身の細胞から作ることは再生医療の重要な目標の1つである。 研究代表者が参加している研究チームでは、臓器欠損動物の胚盤胞に正常多能性幹細胞を注入し臓器を作製する方法「胚盤胞補完法」で、動物体内に膵臓・腎臓などを作製することに成功している。しかしながら、この方法では、ヒト細胞が動物の神経や生殖腺に寄与してしまうことを懸念する倫理的問題のため、倫理問題をクリアにしながらの実験が求められ、ヒトの臓器作出に応用できないのが現状である。研究代表者はこれまでに、メダカ孵化仔魚に異系統由来の生殖幹細胞(精原細胞)を移植することで、ドナー由来の配偶子を生産する精巣・卵巣生産に成功している。そこで、本研究では臓器欠損マウス胎仔に分化運命の決定している組織前駆細胞を局所的に移植する方法で異系統・異種体内での血液・臓器作出を行うことを目指した。マウス胎児への細胞移植はあまり例がなかったが、細胞移植したのちに、安定的に正常に発生させることに成功した。また、この実験には、血液を欠損している動物を用意する必要があるが、血液を欠損させるためにノックアウトするための標的遺伝子を見つけることができ、マウス異系統(GFP系統)由来の造血幹細胞を血液欠損マウス胎仔に移植することで血液を補完することに成功した。また、膵臓欠損マウス胎仔に異系統由来の膵前駆細胞を移植することで、一部ではあるが、GFP蛍光を示す移植細胞由来の膵臓細胞が宿主マウスに形成されていることが観察された。
|