研究課題/領域番号 |
15K18807
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
伊藤 克彦 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80725812)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウイルス / カイコ / 抵抗性 / 遺伝子 / トランスクリプトーム解析 / 次世代シークエンサー |
研究実績の概要 |
本研究は、カイコ濃核病ウイルス1型の感染に対して、独立に完全抵抗性を示す2種類の遺伝子Nid-1とnsd-1を単離することと、その作用機構を調査することで昆虫病原性ウイルスに対する宿主昆虫側の抵抗性機構を解明することを目指している。初年度は、2種類の遺伝子のうちNid-1に着目し、その特定を目指した。 まず、Nid-1系統におけるウイルス抵抗性機構の調査を行った。すなわち、Nid-1系統にウイルスを接種したのち、ウイルスの感染組織である中腸からウイルス由来の遺伝子およびタンパク質が検出されるかどうかを調査した。その結果、Nid-1系統ではウイルス由来の遺伝子がはっきりと検出されたことから、ウイルスは中腸細胞内に侵入していることがわかった。一方で、ウイルス由来のタンパク質はウイルス感染後まったく検出されなかった。このことから、Nid-1はウイルスが細胞に侵入したのち、ウイルス由来タンパク質が翻訳される過程で阻害していることが明らかになった。この結果は大変興味深く、なぜなら昆虫ウイルスにおいて、ウイルスが細胞に侵入した後に働く因子で抵抗性および感受性を決定するものについては、これまでひとつも報告がないからである。このことは、Nid-1は昆虫ウイルス感染に関わる新規因子をコードする重要な遺伝子であることを意味しており、この遺伝子本体がなんであるのか今後の解明が強く求められる。 また、初年度はNid-1の原因遺伝子を特定するため次世代シークエンサーを用いた発現遺伝子の網羅的解析を実施した。具体的にはウイルス抵抗性系統においてウイルス接種区と非接種区を準備し、その後24、48、72時間の中腸をサンプリングしRNA-seqを行った。現在得られた膨大なデータの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、Nid-1の抵抗性機構の解析と原因遺伝子の特定を目指し、Nid-1系統にウイルスを感染させた際の中腸への影響の調査とトランスクリプトーム解析を行った。はじめにNid-1をもつ系統にウイルスを接種後、感染組織である中腸を経時的にサンプリングし、ウイルス由来の転写産物およびタンパク質の変化を調査した。その結果、ウイルス由来の転写産物は感染直後には検出されるが、時間の経過に伴い減少した。また、ウイルス由来のタンパク質を認識する3種類の抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ、どの抗体を用いた場合でもウイルス感染後の中腸からは、目的のタンパク質は検出されなかった。このことから、Nid-1遺伝子産物は、ウイルスタンパク質の翻訳ステップを阻害している可能性が考えられた。この結果を踏まえ、次に、Nid-1をもつ系統においてウイルス接種区と非接種区を準備し、その後24、48、72時間の中腸をサンプリングしRNA-seqを行った。解析には次世代シークエンサーHiseq4000を使用して、101PEでシークエンスを行った。その結果、各データセットで約60~90 Mリードのデータが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度のトランスクリプトーム解析によって、Nid-1系統のウイルス接種区と非接種区間で変動する発現遺伝子を大量に明らかにすることができた。この情報を用いて、今後はウイルス感染に関与する遺伝子を特定していく。特にNid-1をもつ系統ともたない標準系統間での比較を行うことで、Nid-1の単離・同定を目指す。また、これまでの研究により、Nid-1候補領域をカイコのゲノム上の約260 kb内に限定することに成功し、さらにその中に存在する約20の予測遺伝子がNid-1遺伝子本体である可能性を突き止めている。そこで、当初予定していたNid-1系統ともたない標準系統間で、①ウイルスの感染組織である中腸での候補遺伝子の発現の有無、②候補遺伝子の完全長cDNA配列の比較、③qPCRを用いた候補遺伝子の発現量の比較、④候補遺伝子のアノテーションを行う。さらに上記のトランスクリプトーム解析で得られた遺伝子が約20の予測遺伝子と対応するかどうかを調べることで、Nid-1の単離・同定を目指す。 一方、もう一つの抵抗性遺伝子であるnsd-1については、計画しているバキュロウイルスディスプレイシステムを用いたアッセイ系を立ち上げる。まずは、培養細胞実験を行える環境のセットアップを図り、その上で、nsd-1遺伝子産物を発現させた発芽ウイルスを構築し、これと精製した濃核病ウイルス粒子とを混和し両者の結合の有無を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の実験では消耗品を多く使用するため、初年度の予算の一部を次年度に移した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は培養細胞を用いた実験系の立ち上げを計画しており、培養容器等のディスポーサブルの物品を多く使用する。
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