現在まで無脊椎動物において機能的なメラトニン受容体の存在に関する確たる証拠はない。申請者は昆虫において合成酵素が概日振動体と光周性の出力因子を仲介する結節点であることを示した。このことは昆虫でメラトニン受容体を介した生理調節機能の存在を強く示唆する。加えて応募者の発表及び未発表データはメラトニンが概日リズム及び行動多型の制御機能を担っている可能性を示唆する。応募課題では機能的な昆虫メラトニン受容体の存在の証明、機能解析及び生理機能の調節様式を解明する。これらは生物学的な新規性のみならず、昆虫の光周性に対する理解を介して地球温暖化により急速に分布域を広めている衛生害虫に対する対策にもつながる可能性を秘めている。 メラトニンが概日リズムに与える影響を調べるためにワモンゴキブリを用いてメラトニンの経口投与実験を行った。その結果コントロールの水投与群と比較して有意にその行動リズムの変化が確認され、リズムのノイズが減少することが確認された。ワモンゴキブリは夜行性の昆虫であるが、水投与群と比べてメラトニン投与群では昼間の行動が有意に減少し、夜間の行動活性が上昇することが確認された。引き続いてメラトニン受容体のRNAiを誘導し、行動リズムを測定したところ、メラトニンの経口投与とは逆に、行動リズムのノイズが上昇し、リズムを消失する個体が上昇した。メラトニンの合成酵素のaaNATに対してRNAiを行うと、メラトニン受容体のRNAiと同じようにリズムのノイズが上昇することが確認された。さらにaaNATのRNAi誘導個体にメラトニンを経口投与するとノイズの消失から回復することが認められた。免疫組織学的解析によりメラトニン受容体、aaNAT陽性反応はともに時計細胞及び左右に存在する時計を連結している神経線維に認められた。
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