研究課題/領域番号 |
15K18811
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
安藤 俊哉 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (10709744)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 昆虫 / クチクラ / 微細構造 / バイオミメティクス / ショウジョウバエ / 嗅覚 |
研究実績の概要 |
生物が織りなすナノメートルスケールの微細構造は生体機能に重要な巨視的な現象を引き起こす。生物由来の微細構造の物性と構造に関する知見が蓄積する一方で、生体内での微細構造の自立形成に関わる分子機構は不明であった。本研究では、表面張力により液体の漏洩を防ぐと同時に気体の透過を促す特性を持つ、昆虫の嗅覚感覚毛の多孔性外骨格(クチクラ)の自律形成機構を分子レベルで解明し、生物規範に基づく機能性新素材開発に役立つ分子の物性・動態に関する知見を得ることを目指した。 平成27年度は、ショウジョウバエ遺伝学による微細孔(ナノポア)形成を制御する遺伝子の探索、及びナノポア前駆構造の元素分析を主に行った。その結果、ナノポアの生成に関わる因子として (1)細胞外への脂質膜の切り出し制御因子と(2)細胞表面への脂質膜の供給制御因子を、ナノポアの分布密度に関わる因子として(3)アクチン細胞骨格を同定した。これらの結果は、細胞膜直下の細胞骨格パターンが細胞外に転写され、さらに外骨格の構成成分として細胞膜由来の脂質膜を細胞外に放出することで幾何学的に配置されたナノポアが外骨格に形成されることを示唆する。この様式は、今まで考えられてこなかったユニークなものであり、微細加工技術へ応用する上で模倣すべきポイントと分子種候補が絞られた点で意味深い。さらに、以上の解析と並行して、ナノポア形成細胞で高発現する遺伝子の探索をRNA-seq法により行った。得られたナノポア形成制御遺伝子候補155遺伝子について、現在RNAi法による機能解析を順次進めている。一方で、ナノポア前駆構造の元素分析をSTEM-EDSにより行ったが、クチクラ直下でのバックグラウンドのシグナルが高く、定量が困難であった。現在、代替手法である免疫電子顕微鏡法及び超解像顕微鏡法により成分分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
形態観察に基づく推測により、実際に多孔性クチクラ上のナノポア形成不全を引き起こす変異体を複数同定し、ナノポア形成に関わる細胞の挙動が明らかとなってきた。また、RNA-seq法に基く網羅的探索についても順調に解析が進行している。STEM-EDSによるナノポア前駆構造の成分分析は技術的に困難であると判明したが、ナノポア形成制御遺伝子が同定されたことで前駆構造の成分が絞られた為、抗体や特異的プローブを用いた手法によって代替可能であると判断した。以上により次年度の研究遂行の基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
ナノポア形成不全を示す変異体での形態異常を電子顕微鏡レベルで明らかにするとともに、ナノポア形成制御因子を蛍光タンパク質でラベルしたショウジョウバエ系統を用いて、ナノポア形成過程における分子動態及びその制御機構を明らかにする。RNA-seq法で絞られた候補遺伝子の機能検定により新たな制御因子の同定を進める。ナノポア形成制御因子の特性に基づき、ナノポア前駆構造の成分を絞り込む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究所の次世代シークエンサー解析ユニットの努力により、RNA-seq解析に掛かるコストが低減した為。
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次年度使用額の使用計画 |
ナノポア形成不全変異体の電子顕微鏡解析において、当初計画になかったFBS-SEMという新装置を利用する必要が生じた為、その受託解析の費用に充てる。
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