生物が織りなす微細構造は生体機能に重要な特徴的な物性を発現させる。本研究では、防水通気性を有する昆虫嗅覚感覚毛の多孔性外骨格(クチクラ)の自律形成機構を分子レベルで解明し、生物規範に基づく機能性新素材開発に役立つ分子の物性・動態に関する知見を得ることを目指した。 平成28年度は、前年度RNA-seq法により同定したナノポア形成制御遺伝子候補155遺伝子の中で、RNAi法による機能阻害で全てのナノポアが消失するgoxと名付けた新規遺伝子に着目して解析を進めた。goxは、昆虫のみに広く保存された新規膜タンパク質遺伝子であり、シグナルペプチドと2つの膜貫通ドメインを持つと予測される以外に既知の機能ドメインを全く持たないタンパク質をコードしていた。ショウジョウバエの発生ステージ別公開RNAseqデータベースによると、クチクラの最外層を作る時期にのみ発現しており、ナノポア形成に特化した遺伝子であることが推測された。実際にゲノム編集ツールCRISPR-Cas9 を用いてgox変異体を作成したところ、変異体は生存可能であり、見られた表現型はナノポア数の消失、電気生理学的な嗅覚応答の低下といったナノポア形成に関連したもののみであった。Goxの細胞内での局在を調べるために、Gox のN末及びC末にHAタグもしくはFLAG タグを融合したタンパク質を、S2細胞及びナノポアを形成する嗅感覚毛シャフト細胞で発現させたところ、endosomeを中心とした細胞内小器官及び細胞表面でのドット状の局在を示していた。以上の結果と昨年度の形態形成過程の観察の結果を考え合わせると、Goxは細胞内膜輸送の制御、もしくは細胞膜表面の曲率の制御を介して細胞表面に微細突起構造を形成し、クチクラ最外層に形成されるクチクラ貫通の為の足場を築いていくと考えられた。
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