研究課題/領域番号 |
15K18813
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
小柳 知代 東京学芸大学, 環境教育研究センター, 講師 (80634261)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生物文化多様性 / 景観変化 / 資源植物 / 伝統行事 / 里山 / 中山間集落 |
研究実績の概要 |
本研究では、過疎高齢化が深刻化する中山間集落を対象として、地域固有の伝統的な生態学的知識(traditional ecological knowledge: TEK)に基づく植物資源利用がもたらす生態学的価値および社会的価値の時空間変化を明らかにし、地域の生物文化多様性の一体的な保全に向けたTEKの役割を定量的に評価することを目的としている。 伝統的な土地利用形態の異なる3つの中山間集落を事例対象地として、1年目には、野外調査、文献調査、および聞き取り調査を実施し、3集落それぞれについて、地域ごとの植物フロラを整理するとともに、その中から対象集落で伝統的に利用されてきた資源植物を抽出した。また水田景観を主体とする集落について、資源利用の多様性と全植物種の多様性との関係を評価した結果からは、資源植物の多様性が地域の生物多様性を指標しうることが示唆された。聞き取り調査からは、資源植物の分布域が、過去60年の間で大きく変化している可能性が指摘され、人間活動の衰退に伴う景観変化が資源植物の供給力を低下させていることも明らかになってきた。また、未だサンプル数が不十分ではあるものの、世代間でのTEKの保有状況の差異は利用用途によって異なり、特に生活に密接する食文化以外のTEKについては若い世代にほとんど伝わっていなかった。2年目以降は、他の2集落でも同様の調査を引き続き実施することで、生物文化多様性の消失に伴う生態的、社会的影響を定量的に把握する。こうした成果の一部は、国内の複数の学会で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象地の一部を、当初予定していた地域から変更したものの、伝統的土地利用形態の違いがより明確になり、また既存のデータを有効活用したことで、研究自体に遅れを生じさせることなく進めることができた。また最終年度に予定しているGIS解析で用いる空間データの収集も開始した。聞き取り調査の一部については、未だサンプル数が少なく十分な解析ができない状態であるため、2年目以降に追加で実施することを検討しているが、その他の調査は順調に進んでいるため、2年目以降も無理のない計画のもとで研究を遂行できると考えている。こうした状況をふまえ、おおむね順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、新たに追加した2つの対象集落についても世代間でのTEKの保有状況の調査を行うとともに、各集落における資源植物の社会的利用状況(伝統行事、レクリエーション、環境教育活動等)についての聞き取り調査を実施し、TEKがもたらす社会的価値とその変化の定量化を行う。最終年度には、2年間で得られたデータを総合的に取りまとめて、TEKに基づく植物資源利用の生態学的価値および社会的価値の時空間的変化をGIS解析により評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費については、調査地の一部を変更したことおよび調査回数に変更が生じたことから使用額が予定額よりも抑えられた。また、人件費・謝金については、聞き取り調査に関連する被験者謝金やアンケート調査のデータ入力補助者謝金として予定していた内容を次年度に繰り越すことになったため未使用となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
人件費・謝金については、調査研究補助者にデータ入力を依頼するため、当初予定していた内容での執行を次年度に進める予定である。旅費については、聞き取り調査を中心に調査の時期や回数を見直し、一部をデータ整備(物品費)に振り分けることも検討している。
|