モンゴルのフスタイ国立公園とその周辺地域を対象とし、拡大傾向にある開墾・作物生産の持続性、および公園管理が周辺牧民の生計に与える影響について調査研究を継続した。 コムギ畑とナタネ畑について、昨年度までは土壌水分量を比較していたが、作物を含む植物の水利用可能量の観点から、今年度はマトリックポテンシャルを比較した。その結果、コムギ畑は深度によらず永久シオレ点より湿っていた一方、ナタネ畑では根圏と考えられた深度30㎝より深い場所で永久シオレ点より乾燥している傾向が確認された。これより、ナタネ畑では、土壌下部への浸透がほとんどなくなるほど、上部で水が使い切られている可能性が考えられた。昨年度までに報告している通り、コムギ畑では休耕の効果により土壌水分量の回復が見られたが、ナタネ畑では一貫して低下傾向にあった。よって、現状の天水型の栽培方式では、ナタネ生産の持続性は低いと考えられた。 フスタイ国立公園は、周辺牧民の牧畜生産性の向上や生計の多様化を図ることで、家畜頭数の増加を抑えたいと考えており、彼らにソフトローンや各種トレーニングを提供している。そこで、周辺牧民94名に対し聞き取り調査を行い、それらの活動実施と牧民が家畜を増加させる意欲の関係について調べた。その結果、トレーニング受講者は家畜頭数を抑制する傾向にあったものの、ローン受給者はむしろ家畜頭数を増加させる傾向にあることがわかった。また、所有家畜頭数の少ない者や若年層が、比較的家畜を増やす意欲が高いことも確認された。さらに、ローンやトレーニングはまだ地域の大半の人々に対し未実施であり、多くの人々はそれらの活動自体よく知らないという状況であった。今後、活動内容の広報やローン提供の目的に関する指導の強化、ローン使途のモニタリング、所有家畜頭数の少ない者や若年層に対する啓蒙・支援強化といった対策が必要であると考えられた。
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