研究課題/領域番号 |
15K18821
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
熊添 基文 九州大学, 農学研究院, 特別研究員(PD) (70737212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | EGCG / がん / 67LR |
研究実績の概要 |
がんは国民の約30% の死因を占めているにもかかわらず、有効な治療法が確立されていない。既存の抗がん剤に対して腫瘍が耐性を獲得する薬剤耐性や抗がん剤による重篤な副作用が深刻な問題となっている。これらのことから、既存の抗がん剤とは異なる機構に基づくことで既存治療薬に耐性を獲得した腫瘍に有効であり、また毒性の少ない新薬の開発が不可欠である。 研究室ではこれまでに、緑茶ポリフェノールの一種であるEpigallocatechin-3-O-gallate (EGCG) ががん細胞に異常高発現する細胞膜タンパク質 67-kDa Laminin Receptor (67LR)への結合後、がん細胞特異的に奇特な細胞致死経路を活性化することで細胞致死作用を発揮することを明らかにしている (J. Clin. Invest. 123, 787-799 (2013))。そこで、本研究では EGCG をベースとしたがん細胞に有効な治療戦略の確立を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Panc-1細胞移植モデルにおいて、EGCG + 酵素X阻害剤投与群では腫瘍が顕著に縮退し、Gemcitabine投与群と比べても有意な腫瘍成長阻害作用を示めすことを明らかにした。また、当該併用は顕著な転移抑制作用を示した。さらに、DNAマイクロアレイ解析の結果、EGCG + 酵素X阻害剤投与により遺伝子Aの発現レベルが低下することが示唆された。実際に、EGCGと酵素X阻害剤の併用により遺伝子Aの発現は低下することを確認した。また、遺伝子Aをノックダウンすると転移能をはじめとするがん幹細胞性の多くは著しく阻害された。膵臓がん患者に関するマイクロアレイデータベースを解析した結果、遺伝子Aの活性が高いと思われる膵臓がん患者では予後が不良であることが明らかになった。これらの結果から、遺伝子Aががん幹細胞にいて重要な遺伝子であることが示唆された。また、ノックアウトマウスに基づく研究から、遺伝子Aノックアウトは生存期間に影響をしないこと、さらに重篤な障害を示さないことが報告されているため、遺伝子A自体が膵臓がん幹細胞に対する新規の標的となることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在はEGCGの抗がん作用機構を軸に、新たな細胞致死機構の解明を行っている。その中でがんの増殖や転移に重要なキナーゼYが重要であることを明らかにした。これまでキナーゼYが癌細胞の増殖に重要であるという知見は多く集積されている一方で逆に細胞致死の引き金になるという報告はなされておらず、非常に新規性があると思われる。今後はキナーゼYに着目し、作用機構の探索等を行っていく予定である。
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