1. 前年度までに確立および誌面発表した蘚類におけるCRISPR/Cas9システムを用いた標的遺伝子への変異導入法について、より詳細な実験手順を国際的なプロトコル誌に発表した。 2. 前年度までに見出したホンモンジゴケの銅耐性能に貢献する銅排出型輸送体ScHMA5の機能解析を進めた。ScHMA5の細胞内局在を調べるため、蛍光タンパク質を融合したScHMA5 (Citrine-ScHMA5) を、ScHMA5プロモータ下で安定的に発現するホンモンジゴケ形質転換体を作出し、観察を行った。その結果、ScHMA5は小胞体に局在している可能性が見出された。また、銅添加処理による細胞内局在の影響を調べたが、顕著な変化は観察されなかった。 3. 上記のScHMA5の細胞内局在の真偽を検証するため、蛍光タンパク質融合ScHMA5発現ベクターを用いたschma5変異体株の相補試験を実施した。その結果、Citrine-ScHMA5の蛍光シグナルが小胞体に観察される相補株において、schma5変異体で引き起こされた銅耐性能の低下、並びに銅蓄積の上昇が回復することが確認された。従って、小胞体膜に局在するScHMA5が、細胞内から細胞外への銅の排出に関与し、本機構がホンモンジゴケの高い銅耐性能に重要な役割を果たしていることが新たに明らかになった。 本研究の遂行により、ホンモンジゴケを研究するための基盤技術の開発と共に、未知であった本種の高い銅耐性能の背景にある分子機構の一端に切り込むことが出来たと考えられる。
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