研究課題/領域番号 |
15K18825
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齋藤 望 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (40636411)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二重ラセン / ヘリセン / オリゴマー / 熱応答 / 水和 / 自己組織化 / 異方性 / トリエチレングリコール |
研究実績の概要 |
本研究は,化学合成したエチニルヘリセンオリゴマーの性質を分子構造によって精密制御し,自己組織化などの非共有結合によって多数の分子が異方的・三次元的に集合した動的システムを構築するボトムアップ方法論を開発することを目的としている.異方的なマクロ自立物質を構築し,集合システム中において動的で可逆的な二重ラセン-ランダムコイル構造変化を行うことで,分子長変化を増幅してマクロスケールの異方的な伸縮運動に変換する計画である.今年度は,生体に近い水系溶媒中において,本研究の基盤となる分子レベル現象を中心に調べ,水分子がエチニルヘリセンオリゴマーの構造変化において重要な役割を果たすことを見出した. (1)前年度までに,トリエチレングリコール部を末端に有するエチニルヘリセンオリゴマー四量体を合成し,極性溶媒を含む種々の有機溶媒中でホモ二重ラセン-ランダムコイル構造変化を行うことを確認した.また,有機溶媒中では加熱により解離・冷却により会合する一般的な二分子会合の熱応答(以下,順熱応答)を示すのに対し,水系溶媒中では加熱により会合・冷却により解離する通常とは逆の挙動(以下,逆熱応答)を示すことを報告した.本年度にはこの現象について熱力学的パラメータを求めるなど詳細を調べ,トリエチレングリコール部の水和・脱水和が関与すると結論した.合成分子が二分子会合において逆熱応答を示す例は希少であり,このような現象について定量的な議論を行った点で学術的意義のある成果である. (2)種々の水系溶媒中でも逆熱応答を示すことを見出した. (3)混合溶媒中の水の比率に対して,順/逆熱応答の選択性が非線形的に変化することを見出した. (4)末端ではなく側鎖にトリエチレングリコール部を有するエチニルヘリセンオリゴマー四量体を合成し,この化合物が有機溶媒および水系溶媒中いずれにおいても順熱応答を示すことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始当初の計画では,本年度にはトリエチレングリコール部を末端に有するエチニルヘリセンオリゴマーを用いて生体内ラメラ構造やLB膜のような異方的多層構造を形成する予定であった.また,このほか複数のヘリセンオリゴマー化合物を用いて,異方的集合体構築を検討する予定であった.しかし,水系溶媒中において分子レベルの二重らせん‐ランダムコイル構造変化について詳細を調べる過程で,水分子の関与が想定していたよりも極めて大きいことがわかった.水の混合比に対して熱応答が非線形的に変化するなど,研究開始時には予定していなかった現象を見出し,これについても詳細を調べている. 生体タンパク分子の会合・解離や集合体形成にも水分子が重要な役割を果たすことが知られており,また,筋肉の成分であるアクチン繊維の運動にも水和水が深く関与するとされている.本研究で用いるエチニルヘリセンオリゴマーは数千程度の分子量を有し動的な性質を有するという点でタンパク分子に類似の特徴を有する.この合成化合物群を用いて水分子の影響を調べることは,生物学とは異なる視点から生体システムに対する理解を深めることにつながり,学術的意義がある.また,生体類似のシステムを利用した運動機能性物質を,合成化合物を用いて構築できる可能性がある. このような理由から,本年度に得た結果は,本研究を遂行するための有効な新しいアプローチにつながるものであり,総合的に判断して当初の計画以上に発展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である異方的・三次元的な動的システム構築のために,以下の方法を検討する. (1)親水部を有するオリゴマーを用いる方法: ①上述のトリエチレングリコール部を末端および側鎖に有するエチニルヘリセンオリゴマーについて,構造変化と溶媒比の関係の詳細を調べる.また,親水部を有する複数種のオリゴマーを新規合成して構造変化を調べ,分子構造と水系溶媒中での性質に関する系統的な知見を得る.②上記オリゴマーを用いて,Langmuir-Blodgett法によって,オリゴマーが異方的に並んだ多層構造を有する累積膜を構築する.水系溶媒で膨潤した膜中における二重ラセン‐ランダムコイル構造変化およびこれに伴う膜厚変化を検討する. (2)液晶性を利用する方法:ビフェニル液晶部を末端に有するエチニルヘリセンオリゴマーについて,溶液中で冷却・加熱することで二重ラセン‐ランダムコイル構造変化を行うこと,バルクでの構造変化も可能であることを前年度までに示した.構造変化の可逆性を改善するため,融点が低いと<期待できるビシクロヘキシル液晶部を末端に有するエチニルヘリセンオリゴマーを合成し,液晶性および溶液・バルク中における構造変化を調べる.望む性質が得られたら,フィルム化も検討する.
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